天河と七星

「僕は三十年前、恋人に言った。いつか僕たちの子供が生まれたら、日本でもアメリカでも一年中見ることができる北斗七星にちなんだ名前をつけたいって。たとえ何があっても、いつでも見上げればそこにいる。そんな存在でいたかった。
日本では北斗七星というそうだね。だから七星と名付けるとナナコは言った」

博士の声が震えている。こんなところで名前の由来がわかるなんて思わなかった。

私は改めて博士の顔を注視した。
やや面長の顔の輪郭。すっと通った鼻。大きな瞳。瞳の色は、グリーンを帯びたヘーゼル。
毎日鏡で見ている私の顔の面影があるような気がしてならない。

「今、バカみたいな妄想をしてます。ステラ博士が私のお父さんじゃないかなんて」

「それなら僕も同じだよ。
お金がなくなったから日本に帰ると一方的に別れていった恋人が、僕の子供を産んでくれたんじゃないかなんて」

体が震えるくらい、胸が熱い。
もしかしたら。もしかしたら。そればかりが頭を巡る。

「学生だったあの頃、なかなか結果が出なくて研究を諦めようとしてたんだ。だけどナナコは僕が研究を続けることを願った。僕ならできるって励ましてくれた。
それなのにナナコ自身はあっさりと勉強を辞め、僕を捨てて日本に帰ってしまった。
研究最優先でナナコのことを一番に考えられなかった僕は、捨てられて当然だと思って追いかけなかった。
まさか妊娠していたなんて思いもしなかった。妊娠を知っていたなら僕は研究を辞めて、子どものために仕事についていただろう。今の研究者としての僕はいなかった。
結果論だけど、ナナコの願い通りになった」

ずっと探していた真実が、思いもしなかった現実となって目の前にある。
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