天河と七星
「母は父のことを何も話さなかった。だから家族にはずっと、母が乱暴をされて出来た子供だと、犯罪者の子供だと言われてきたのです。
もし博士が私の父だったと仮定して。恋人との間には愛があって、愛し合った末に私がいると、思ってもいいのでしょうか」

「当たり前だ。私は今でもナナコをこの世の誰より愛している。ナナセの存在を知らなかったことが悔やまれるよ。キミの成長を近くで見ていたかった。毎日、いやというほどの愛で包んであげたかった。
あのとき、意地でもナナコを追いかけるべきだった」

父がどんな人物でも現実を受け止めて前に進むと決めていた。
私のお父さんは犯罪者でもなく、遊び人でもなかった。それどころか、あこがれのステラ博士が私の父だった。
夢じゃないかな。

「普段から研究のことしか頭にない博士なんだけど、酔うと三十年前に別れた初恋の人の話をするんだ。
相手は日本人で名前はナナコ。アメリカ留学して宇宙の研究をしていた七星のお母さんと同じ名前。
偶然かと思ったけど、瞳の色も同じだし博士と七星がなんとなく似てる気がして。とにかく会わせたかったんだ。
僕の読みがあたったね」

「天河が、日本に来たらいいことあるかもって言ってたのはこれだったんだな。僕はてっきり新プロジェクトのことかと。
そうだ、七星もこのプロジェクトに参加するのかい?キミも宇宙工学を学んでいるのか?」
「独学ですが、博士の論文はすべて読破しています」
「では、宇宙に関する普遍の真実について、初期の宇宙では…」
「博士の論文では、初期の宇宙では物理的法則が変化していくと…」

質問は博士の論文を読んでいれば答えられる内容だった。食い気味に即答した私に博士はうれしそうにうなづいた。
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