天河と七星


都心から離れた郊外にある株式会社COOGA(クーガ)の広大な研究施設。その片隅が私の職場。
COOGAは家電から産業電気機器まで幅広く展開している大手総合電機メーカーだ。

データを集め、まとめる。それが私に与えられた仕事だ。

「最初は簡単な仕事でラッキーって思ってましたけど。
こんなに単純作業で飽き…やり甲斐が見いだせなくて。主任はもう九年も続いているなんて、すごいですね」

つい一ヶ月前に入ってきた契約社員の岩井さんが私に愚痴をこぼす。飽きると言わずにやり甲斐が見いだせないと言い換えただけ可愛げがある。
なにしろ私が配属されてからこの九年間、何人の社員が配置替えを希望し異動していったかわからない。

「ただの慣れだよ。
定時になったね。今日は飲み会って言ってなかったっけ?」
「今日は本社の男の子と合コンなんです。COOGAの社員と親しくなるチャンス!」

岩井さんは気合の入ったワンピースにちょっと濃い目のメイク。キレイだなぁ。絶対モテる。
そんな彼女が私の顔を不意にじっと見た。

「もったいないなぁ、主任。せっかくのハーフ顔、お化粧したら映えそう。お洋服だっていつも同じ。おしゃれしないんですか?」

「ここじゃ誰も見ないし、面倒だから。
お疲れ様でした」

おしゃれに使うお金はない。
稼いだ給料は手元にはほとんど残らない。
中條家の住人がいなくなるまでずっと搾取され続けるのだろう。もう諦めている。

この九年間、ただひたすらに与えられた仕事をこなすだけの、淡々と変化のない時間を過ごしていた。
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