天河と七星
私は社宅の部屋へと帰った。
静かで冷えた無機質な部屋。愛着が湧くと捨てられなくなるから物を持たない。生活に必要最小限の物だけで暮らしている。
何かが欲しいとかきれいになりたいとかいった願望はない。マナの結婚パーティで久しぶりに『嬉しい』と感じたくらいだ。
楽しみや喜びといったプラスの感情は、ほとんど消えてしまった。
私はただ平穏な毎日を送れればいい。
唯一の心の拠り所は、きっと彼も見ているだろう夜空を見上げることだ。
私は本棚から一冊の雑誌を取り出した。
表紙に「快挙!日本人学生の論文が受賞!!」と大きな字。
表紙を開けば授賞式の写真。宇宙工学の権威ステラ博士とトロフィーを手にした日本人学生九条天河が握手をしながら笑顔で写っていた。
紙がよれよれになるほど読み込んだ雑誌。彼の論文は何度読んでも素晴らしい。