【コミカライズ化】追放された歌姫は不器用な旦那様に最愛を捧ぐ
13.その歌姫は、変わり始める。
声が出せない分"ありがとう"の気持ちを形にして伝えたい。とはいえ元々はマリナのドレスであったモノで、しかも素人の手作り。
そんな品を渡すなんて困らせてしまわないだろうかというエレナの心配は杞憂に終わった。
「コレを私にくださるのですか!! しかもエレナ様の手作り!?」
気に入らなかったら捨ててもいいからと慌ててスケッチブックに書き加えたエレナに、
「捨てるだなんて有り得ません!!」
と食い気味に言ったリーファは、
「すごく綺麗。それになんと細やかに作り込まれているのでしょうか」
素敵ですとリボンシュシュを眺めたリーファは早速髪につけてくれた。
リーファの髪に留めたときの事をイメージして作ったそのシュシュは、エレナの予想通り彼女によく似合っていた。
「とっても嬉しいです。ありがとうございます、エレナ様」
大事にしますねとリーファに言われエレナはまた泣きたくなった。
今度は言葉に表せない胸を締め付けるような悲しさではなく、気持ちを受け止めてもらえた嬉しさで。
嬉しくて泣きたくなるなんてそんな感情をエレナは知らなかった。
『他のみんなも貰ってくれるかしら?』
いつもお世話になっている侍女達の分を見せてリーファに尋ねる。
「一つ一つデザイン違うんですね。なんと器用な。いらないどころかむしろお金を払ってでも買いたがる子いると思いますよ」
コレ、売り物レベルですよ! と真剣に言ったリーファにお世辞でも嬉しいと答えたエレナの元に、噂を聞きつけたエレナ作の髪飾りやアームバンド、コサージュなどの小物を買いたいと城内勤めの侍女たちがかわるがわる訪れるようになったのはそれから数日後の事だった。
エレナはお金を受け取る代わりに彼女達から情報を買う事にした。
『このバーレーの事や屋敷の事、ルヴァル様の事。何でもいいの。あなた達が知っている事を私に教えてくださらないかしら?』
そうして本日もエレナは自分の申し出に喜んで頷いてくれた侍女達のために作品づくりに勤しんでいる。
(マリナには貧乏臭いって踏みつけられたり壊されたりしたけれど、こんなに喜んでもらえるなんて)
自分の作った物をこんなに喜んでもらえる日が来るなんて思わなかったとエレナは嬉しい気持ちでいっぱいだ。
(まさかあの頃の特技がこんなところで役に立つなんて思わなかったわ)
元々は装飾品の類を全て取り上げられてしまったエレナがエリオットに会う際に少しでも彼に可愛く見られたいと思い見よう見まねで始めた事だった。
もっともエリオットにそれらを褒められた事は一度もないけれど。
(エリオット様には褒められるどころか、すごく複雑そうな顔で見られたわね)
とエレナは内心で苦笑する。
当時エレナが作っていた髪飾りの材料はエリオットから贈られた花束を結んでいたリボンやマリナから押し付けられた彼女の気に入らなかったドレスから調達していた。
普段一級品の上質な物だけに囲まれて生きているエリオットからすれば、婚約者が身につけているそれらはきっと奇異なものとして映った事だろう。
自分が贈った装飾品を身につけることなく、婚約者がそんなモノを身につけているなら尚更。
(きっと、傷つけてしまったに違いないわ。愛想を尽かされても文句は言えない)
取り止めとなく浮かんできた思いと共に婚約破棄された時のエリオットの顔を思い出し、エレナの胸は軋む。
せっかく自分のために選んでくれたのに、エリオットの前でつける事ができなかった彼から贈られたプレゼント。
ルヴァルが自分の贈った髪紐をつけてくれているのを目にする度に、エレナは暖かく幸せな気持ちを感じる。そんな優しさや気持ちを自分はエリオットに返す事ができなかったのだ。
8年という長い間、一度たりとも。
(今更どうにもできないわね。もう会う事もないのでしょうし)
自分とは無理だったが、せめて彼自身が選んだマリナと幸せになってくれれば、とエレナは祈るようにそう思った。
「お疲れになりました? ずっと手が止まっていらっしゃいますが」
休憩されませんか? とリーファが声をかけてくれた事で、エレナの意識が手元に戻る。
目の前に置かれた暖かな紅茶に添えられた本日のおやつ。
「今日のおやつはプリンです。本当は生クリームをたーっぷり使いたいところですが、ソフィアから許可が降りなかったので控えめでシンプルなものとなってます。なので安心してお召し上がりください」
本当はプリンアラモードとかパフェとか出したいんですけどと残念そうにリーファは言うが、プリンなんてエレナにとっては十分過ぎる程贅沢品だ。
(すごく美味しそう)
わぁーっと思わず黄金に輝くプリンを見つめたエレナは、手を合わせてからすごく大切そうに一口掬って口にする。
(美味しいっ)
それはさっきまで抱えて憂鬱な気持ちを吹き飛ばすほど美味しく幸せな味がした。
キラキラした目でプリンを見るエレナを見て、リーファはクスリと笑う。
ほんの小さなその音で我に返ったエレナは顔を赤らめ恥ずかしそうにうつむく。
「すみません、あまりにも反応が良かったもので」
料理長に伝えておきますね。すごく喜ぶと思いますと笑いを堪えながらリーファは付け足す。
最近のリーファは少し意地悪だわと思いつつメッセージカードを取り出したエレナは、
『とても美味しく頂きました。ありがとう』
さらっと感謝の言葉とプリンの絵を書いて、
『どうせならコレも渡してくれる?』
とリーファに頼んだ。
「ええ、確かに承りました」
一瞬驚いた顔をしたリーファはすぐに優しく笑って了承してくれる。
まだ上手くは笑えないエレナはそれでも精一杯表情筋を動かしてリーファを見て頷いた。
そんな品を渡すなんて困らせてしまわないだろうかというエレナの心配は杞憂に終わった。
「コレを私にくださるのですか!! しかもエレナ様の手作り!?」
気に入らなかったら捨ててもいいからと慌ててスケッチブックに書き加えたエレナに、
「捨てるだなんて有り得ません!!」
と食い気味に言ったリーファは、
「すごく綺麗。それになんと細やかに作り込まれているのでしょうか」
素敵ですとリボンシュシュを眺めたリーファは早速髪につけてくれた。
リーファの髪に留めたときの事をイメージして作ったそのシュシュは、エレナの予想通り彼女によく似合っていた。
「とっても嬉しいです。ありがとうございます、エレナ様」
大事にしますねとリーファに言われエレナはまた泣きたくなった。
今度は言葉に表せない胸を締め付けるような悲しさではなく、気持ちを受け止めてもらえた嬉しさで。
嬉しくて泣きたくなるなんてそんな感情をエレナは知らなかった。
『他のみんなも貰ってくれるかしら?』
いつもお世話になっている侍女達の分を見せてリーファに尋ねる。
「一つ一つデザイン違うんですね。なんと器用な。いらないどころかむしろお金を払ってでも買いたがる子いると思いますよ」
コレ、売り物レベルですよ! と真剣に言ったリーファにお世辞でも嬉しいと答えたエレナの元に、噂を聞きつけたエレナ作の髪飾りやアームバンド、コサージュなどの小物を買いたいと城内勤めの侍女たちがかわるがわる訪れるようになったのはそれから数日後の事だった。
エレナはお金を受け取る代わりに彼女達から情報を買う事にした。
『このバーレーの事や屋敷の事、ルヴァル様の事。何でもいいの。あなた達が知っている事を私に教えてくださらないかしら?』
そうして本日もエレナは自分の申し出に喜んで頷いてくれた侍女達のために作品づくりに勤しんでいる。
(マリナには貧乏臭いって踏みつけられたり壊されたりしたけれど、こんなに喜んでもらえるなんて)
自分の作った物をこんなに喜んでもらえる日が来るなんて思わなかったとエレナは嬉しい気持ちでいっぱいだ。
(まさかあの頃の特技がこんなところで役に立つなんて思わなかったわ)
元々は装飾品の類を全て取り上げられてしまったエレナがエリオットに会う際に少しでも彼に可愛く見られたいと思い見よう見まねで始めた事だった。
もっともエリオットにそれらを褒められた事は一度もないけれど。
(エリオット様には褒められるどころか、すごく複雑そうな顔で見られたわね)
とエレナは内心で苦笑する。
当時エレナが作っていた髪飾りの材料はエリオットから贈られた花束を結んでいたリボンやマリナから押し付けられた彼女の気に入らなかったドレスから調達していた。
普段一級品の上質な物だけに囲まれて生きているエリオットからすれば、婚約者が身につけているそれらはきっと奇異なものとして映った事だろう。
自分が贈った装飾品を身につけることなく、婚約者がそんなモノを身につけているなら尚更。
(きっと、傷つけてしまったに違いないわ。愛想を尽かされても文句は言えない)
取り止めとなく浮かんできた思いと共に婚約破棄された時のエリオットの顔を思い出し、エレナの胸は軋む。
せっかく自分のために選んでくれたのに、エリオットの前でつける事ができなかった彼から贈られたプレゼント。
ルヴァルが自分の贈った髪紐をつけてくれているのを目にする度に、エレナは暖かく幸せな気持ちを感じる。そんな優しさや気持ちを自分はエリオットに返す事ができなかったのだ。
8年という長い間、一度たりとも。
(今更どうにもできないわね。もう会う事もないのでしょうし)
自分とは無理だったが、せめて彼自身が選んだマリナと幸せになってくれれば、とエレナは祈るようにそう思った。
「お疲れになりました? ずっと手が止まっていらっしゃいますが」
休憩されませんか? とリーファが声をかけてくれた事で、エレナの意識が手元に戻る。
目の前に置かれた暖かな紅茶に添えられた本日のおやつ。
「今日のおやつはプリンです。本当は生クリームをたーっぷり使いたいところですが、ソフィアから許可が降りなかったので控えめでシンプルなものとなってます。なので安心してお召し上がりください」
本当はプリンアラモードとかパフェとか出したいんですけどと残念そうにリーファは言うが、プリンなんてエレナにとっては十分過ぎる程贅沢品だ。
(すごく美味しそう)
わぁーっと思わず黄金に輝くプリンを見つめたエレナは、手を合わせてからすごく大切そうに一口掬って口にする。
(美味しいっ)
それはさっきまで抱えて憂鬱な気持ちを吹き飛ばすほど美味しく幸せな味がした。
キラキラした目でプリンを見るエレナを見て、リーファはクスリと笑う。
ほんの小さなその音で我に返ったエレナは顔を赤らめ恥ずかしそうにうつむく。
「すみません、あまりにも反応が良かったもので」
料理長に伝えておきますね。すごく喜ぶと思いますと笑いを堪えながらリーファは付け足す。
最近のリーファは少し意地悪だわと思いつつメッセージカードを取り出したエレナは、
『とても美味しく頂きました。ありがとう』
さらっと感謝の言葉とプリンの絵を書いて、
『どうせならコレも渡してくれる?』
とリーファに頼んだ。
「ええ、確かに承りました」
一瞬驚いた顔をしたリーファはすぐに優しく笑って了承してくれる。
まだ上手くは笑えないエレナはそれでも精一杯表情筋を動かしてリーファを見て頷いた。