【コミカライズ化】追放された歌姫は不器用な旦那様に最愛を捧ぐ
29.その歌姫は、期待される。
「さあ? 正確な事態の把握なんて、ここからできるわけないじゃん」
何の情報もないのに、というノクスの声でルヴァルの思考が現在に戻る。
「そもそも偽造通貨の存在を知った国がどう対応するのかを考えるのは俺じゃねぇし」
国の中央組織を嫌っているノクスはそんな事には興味がないとばかりにそう切り捨て、
「それよりも、だ。俺が"ありえねぇ"って言ったのはひーさんの事だよ」
ルヴァルにそう詰め寄った。
「ひーさんは"偽造通貨"を見つけるのに魔法の類を一切使っていなかった」
ノクスは確信を持って自分にコインを手渡した紫水晶の瞳を思い出す。
エレナが偽物だと拾い上げた時、彼女が魔法の類を使った痕跡は感じ取れなかった。そもそもエレナは魔力回路が焼き切れていて、魔法が一切使えないはずだ。
「アンタがいきなり嫁にするなんて連れて来たから、なんか有るんだろうとは思ってたけど。ひーさんって何者なん?」
ノクスが真剣な顔でそう尋ねてくるが、残念ながら"エレナが何者であるか"に対しての明確な答えをルヴァルは待ち合わせていない。
「ノクス、ピアノはお前が音の調整したそうだな。一般的に調律をする時には音叉を使うそうだが当然うちの城にはそんな物はない。一体どうやったんだ?」
「それは……ひーさんが」
リーファにピアノの調律を依頼された際、基準となる音や合わせる音が分からなければ無理だとノクスは告げた。
少し考えたエレナはリーファに頼んでいくつもグラスを用意し、そこに水を注いだ。エレナが作ったのはグラスハープだった。
『この音を見える化することってできるかしら? 例えばノクスが扱える数字に置き換えるとか』
そう問われたノクスは請われるまま測定を行い、基準となる音を数値化した。
並べた数字に法則性を見出したエレナはそれを元にピアノの音を全て数値化して見せた。自分はそれに従ってその音が鳴る様にピアノを錬成し直したに過ぎない。
「音楽家の中には"絶対音感"を持っている奴もいるって聞くし、かつて国宝レベルの歌姫だったんなら、そうなんだろうなってくらいにしか思ってなかったんだけどさ」
ノクスは錬成し直したピアノの音を聞き、錬金術師って本当にすごいのねとスケッチブックに綴った文字と共に何度も感謝を述べてくれたエレナの姿を思い出す。
ピアノを弾きながら歌を奏でる楽しそうな彼女はごく普通のどこにでもいる少女のように見えたのに。
「本物と偽物を音だけで聞き分けるなんて、耳がいいってレベルじゃないだろ」
構成する物質が異なることで生じる僅かな異音。それを聞き取るなんて、普通のそれも魔法が使えない人間ができることではない。
「まぁ、そうなんだがな。現にレナはそれができてしまうんだ。何せ200m先の人間の足音を防音仕様の部屋の中から聞き分け、リーファの義足に気づくレベルで耳がいい」
「……っ!!」
ルヴァルの言葉に驚きノクスが黄色の目を見開く。リーファの義足を設計したのはノクスなので、その仕様書は頭に入っている。
リーファが任務に出た際邪魔にならないように、金属音が鳴らないようにかなり工夫した。何度もリーファにリテイクを喰らって、付けている本人ですら気づかないレベルの音に抑えたそれを聞き取ったのだという。
「なんだ、それ。ひーさんのチートが過ぎるんだけど!」
マジで? とエレナの特異性に気づいたらしいノクスがそう叫ぶ。
「で、"エレナが何者か"という話だが。……ノクス、お前はレナが"怖い"か?」
そんなノクスにルヴァルは静かにそう尋ねる。
ルヴァルが契約した白い狼の形をした神獣はエレナの事をヒトの形をした"我らが同胞"と呼んだ。
時を巻き戻す事を可能にする力を持つ神獣が、唯一と呼びその存在を取り戻そうとするほど貴重なエレナの能力。
それは魔力を込めた歌で"相手を癒す"という単純なものではないのかもしれない。
「怖く……は、ないな。ってか、ひーさんは、ひーさんだろ」
少し考えたノクスは肩を竦めてそう言うと、自分の言葉に納得したように頷く。
たとえエレナが理解を超える存在で説明ができない現象を起こすのだとしても。
「この訳ありしかいない城内で、"何者か"なんて野暮な質問だったな」
ノクスは誤解や詐欺師扱いを受けることが多い錬金術師に偏見を持つ事なく、錬成術を見てすごいと目を輝かせ、楽しそうにピアノを奏でるエレナの姿を思い浮かべ表情を崩す。
少なくとも彼女自身は自分にとって害悪ではない。
「けどまぁ、何かに突出した能力の持ち主ってのは、狙われやすいから。ひーさんが自分の能力に無自覚なら教えておいた方がいいんじゃね?」
そうじゃないとエレナが自分の身を守れないと言ったノクスを見ながらルヴァルは黙り込む。
エレナの特異性は、数ヶ月側にいただけの自分達ですら気づいた事だ。彼女に近しい人間がそれに気づいていた可能性は大いにある。
『ヒトには聞こえないレベルの音が魔力を感知される事なく聞こえる』
これから反乱が起きようとするこの国での情報戦においてその利用価値はかなり高い。
前回の生でエレナがそれに巻き込まれ、利用されて殺された可能性も十分考えられる。
「……そう、なんだが」
だが、とルヴァルはエレナに伝えるべきか否か躊躇する。
「レナには、戦闘能力……は、ないだろ」
ぽつりとルヴァルは歯切れ悪くそうつぶやく。
おそらくあまり幸せとは言えなかっただろうエレナの今までの時間。
今のエレナは過去に自分に起こっただろう悲惨な出来事も、これから先に起きるだろう不穏な出来事も知らない。
「このまま何も知らず、悪意に晒されることも、誰かに傷つけられる事もなく、ただ今みたいに笑っていてくれたらと思ってしまうんだ」
ここに来てようやく笑う様になったエレナ。エレナに知らせることで余計な不安を植え付け、再び彼女の上に影が落ちるような事になったら?
傷ついてエレナが泣くところを見たくない。感情論で選ぶなんてらしくないし、領主としては失格だろう。
そう分かっているのに笑っているエレナを見るとルヴァルは"伝えない"という選択をしたくなる。
「……う〜わぁ、ガチめのガチの奴じゃん。俺、てっきり何かに利用する気満々で嫁にしたんだと思ってた」
そんなルヴァルを前にして面食らったような顔でノクスがマジかとつぶやく。
「なんていうか、こう……お館様って人間だったんすね」
色々人間離れしてるから魔物の親戚かと思ってたわと揶揄うように言ったノクスに眉間に皺を寄せたルヴァルは、
「さっきから何を言っているんだお前は」
とイラっとしたような口調で言い返す。
「何って……お館様ひーさんの事ぶっちゃけどう思ってんの?」
新婚さんを揶揄ってやろうくらいに思っていたノクスは会話に若干ズレを感じ、念のためルヴァルにそう確認する。
「どう、って」
聞かれたルヴァルは、エレナの姿を思い浮かべる。
エレナは自分に何かを求めることはなく、自分の隣で静かに歌を紡ぐ。そんな彼女の側にいる時間はとても心地良い。
エレナは自分から欲しい物に手を伸ばす事が少なく、与えられたモノをとても大事そうに受け取って、幸せそうに笑う彼女を見ていたらもっと色んなモノを与えたくなる。
常に奪う側の人間である自分にとって、それは珍しい感情だった。
「……絶滅危惧種レベルの保護対象者だな」
これがきっと庇護欲というものなんだろう。ルヴァルは少し考えてそう答える。
が、ルヴァルの回答を聞いたノクスは、
「……無自覚かよ。ひーさん、どんまい」
うへぇと面倒くさそうに肩を竦めた。
「はぁ?」
何を言っているんだコイツはと言わんばかりの声を上げたルヴァルに、
「メンドーな拗らせ独りよがり乙」
ノクスはバッサリそう言って切り捨てる。
別に女を知らないわけでもないだろうし、こんなどう見ても百戦錬磨みたいな面構えで、無自覚。
恋心を自覚している分、エレナの方がまだマシ……と言うよりもリーファをはじめとして見守り隊が結成されるレベルで愛でられているくらい可愛い。
が、ヤローの恋煩いは萌え転がる要素もないし、正直面倒でしかない。
かと言って余計な事を言ってこれ以上ルヴァルが拗らせたりしたら自分がリーファに締め上げられる。
そう思考を巡らせたノクスは、
「俺、ひーさんの親衛隊加入するわ」
そう宣言する。
意味が分からないと訝しげに眉を顰めるルヴァルの前にノクスはトンっと紙を1枚差し出す。
「なんだ、コレは」
「"音"で偽造通貨を発見するための判定機の仕様書。ちなみにひーさんの設計」
まぁ、俺が懇切丁寧に手伝いましたけど、と言ったノクスは、
「ひーさんは、ここで生きていくための覚悟を決めてる。自分でできない事は誰かの力を借りながら、それでも自分にできることを探そうと毎日努力してる」
きっとルヴァルにとって必要になるからと短時間で偽造通貨を判別できる機器の設計図の構想をまとめ、ノクスに持ち込んだのはエレナ自身だ。
「怖がらせないように、って勝手に連れてきておいてからの放置。何が起こるのか、そもそもひーさんが傷つくかも分かんないのに、勝手に決めつけて大事な事何にも伝えないまま囲い込み。それ、本当にひーさんのためなん?」
真剣な声音でルヴァルに尋ねる。
「戦い方なんてヒトそれぞれ。保護しなきゃいけない弱者だなんて侮ってたら、あっという間に寝首かかれるぞ」
黙ったままのルヴァルにニヤッと笑ったノクスは、
「覚悟を決めた女は怖ぇぞ。その目を逸らすなよ」
2人の進展についてはエレナの頑張りに期待する事にした。
何の情報もないのに、というノクスの声でルヴァルの思考が現在に戻る。
「そもそも偽造通貨の存在を知った国がどう対応するのかを考えるのは俺じゃねぇし」
国の中央組織を嫌っているノクスはそんな事には興味がないとばかりにそう切り捨て、
「それよりも、だ。俺が"ありえねぇ"って言ったのはひーさんの事だよ」
ルヴァルにそう詰め寄った。
「ひーさんは"偽造通貨"を見つけるのに魔法の類を一切使っていなかった」
ノクスは確信を持って自分にコインを手渡した紫水晶の瞳を思い出す。
エレナが偽物だと拾い上げた時、彼女が魔法の類を使った痕跡は感じ取れなかった。そもそもエレナは魔力回路が焼き切れていて、魔法が一切使えないはずだ。
「アンタがいきなり嫁にするなんて連れて来たから、なんか有るんだろうとは思ってたけど。ひーさんって何者なん?」
ノクスが真剣な顔でそう尋ねてくるが、残念ながら"エレナが何者であるか"に対しての明確な答えをルヴァルは待ち合わせていない。
「ノクス、ピアノはお前が音の調整したそうだな。一般的に調律をする時には音叉を使うそうだが当然うちの城にはそんな物はない。一体どうやったんだ?」
「それは……ひーさんが」
リーファにピアノの調律を依頼された際、基準となる音や合わせる音が分からなければ無理だとノクスは告げた。
少し考えたエレナはリーファに頼んでいくつもグラスを用意し、そこに水を注いだ。エレナが作ったのはグラスハープだった。
『この音を見える化することってできるかしら? 例えばノクスが扱える数字に置き換えるとか』
そう問われたノクスは請われるまま測定を行い、基準となる音を数値化した。
並べた数字に法則性を見出したエレナはそれを元にピアノの音を全て数値化して見せた。自分はそれに従ってその音が鳴る様にピアノを錬成し直したに過ぎない。
「音楽家の中には"絶対音感"を持っている奴もいるって聞くし、かつて国宝レベルの歌姫だったんなら、そうなんだろうなってくらいにしか思ってなかったんだけどさ」
ノクスは錬成し直したピアノの音を聞き、錬金術師って本当にすごいのねとスケッチブックに綴った文字と共に何度も感謝を述べてくれたエレナの姿を思い出す。
ピアノを弾きながら歌を奏でる楽しそうな彼女はごく普通のどこにでもいる少女のように見えたのに。
「本物と偽物を音だけで聞き分けるなんて、耳がいいってレベルじゃないだろ」
構成する物質が異なることで生じる僅かな異音。それを聞き取るなんて、普通のそれも魔法が使えない人間ができることではない。
「まぁ、そうなんだがな。現にレナはそれができてしまうんだ。何せ200m先の人間の足音を防音仕様の部屋の中から聞き分け、リーファの義足に気づくレベルで耳がいい」
「……っ!!」
ルヴァルの言葉に驚きノクスが黄色の目を見開く。リーファの義足を設計したのはノクスなので、その仕様書は頭に入っている。
リーファが任務に出た際邪魔にならないように、金属音が鳴らないようにかなり工夫した。何度もリーファにリテイクを喰らって、付けている本人ですら気づかないレベルの音に抑えたそれを聞き取ったのだという。
「なんだ、それ。ひーさんのチートが過ぎるんだけど!」
マジで? とエレナの特異性に気づいたらしいノクスがそう叫ぶ。
「で、"エレナが何者か"という話だが。……ノクス、お前はレナが"怖い"か?」
そんなノクスにルヴァルは静かにそう尋ねる。
ルヴァルが契約した白い狼の形をした神獣はエレナの事をヒトの形をした"我らが同胞"と呼んだ。
時を巻き戻す事を可能にする力を持つ神獣が、唯一と呼びその存在を取り戻そうとするほど貴重なエレナの能力。
それは魔力を込めた歌で"相手を癒す"という単純なものではないのかもしれない。
「怖く……は、ないな。ってか、ひーさんは、ひーさんだろ」
少し考えたノクスは肩を竦めてそう言うと、自分の言葉に納得したように頷く。
たとえエレナが理解を超える存在で説明ができない現象を起こすのだとしても。
「この訳ありしかいない城内で、"何者か"なんて野暮な質問だったな」
ノクスは誤解や詐欺師扱いを受けることが多い錬金術師に偏見を持つ事なく、錬成術を見てすごいと目を輝かせ、楽しそうにピアノを奏でるエレナの姿を思い浮かべ表情を崩す。
少なくとも彼女自身は自分にとって害悪ではない。
「けどまぁ、何かに突出した能力の持ち主ってのは、狙われやすいから。ひーさんが自分の能力に無自覚なら教えておいた方がいいんじゃね?」
そうじゃないとエレナが自分の身を守れないと言ったノクスを見ながらルヴァルは黙り込む。
エレナの特異性は、数ヶ月側にいただけの自分達ですら気づいた事だ。彼女に近しい人間がそれに気づいていた可能性は大いにある。
『ヒトには聞こえないレベルの音が魔力を感知される事なく聞こえる』
これから反乱が起きようとするこの国での情報戦においてその利用価値はかなり高い。
前回の生でエレナがそれに巻き込まれ、利用されて殺された可能性も十分考えられる。
「……そう、なんだが」
だが、とルヴァルはエレナに伝えるべきか否か躊躇する。
「レナには、戦闘能力……は、ないだろ」
ぽつりとルヴァルは歯切れ悪くそうつぶやく。
おそらくあまり幸せとは言えなかっただろうエレナの今までの時間。
今のエレナは過去に自分に起こっただろう悲惨な出来事も、これから先に起きるだろう不穏な出来事も知らない。
「このまま何も知らず、悪意に晒されることも、誰かに傷つけられる事もなく、ただ今みたいに笑っていてくれたらと思ってしまうんだ」
ここに来てようやく笑う様になったエレナ。エレナに知らせることで余計な不安を植え付け、再び彼女の上に影が落ちるような事になったら?
傷ついてエレナが泣くところを見たくない。感情論で選ぶなんてらしくないし、領主としては失格だろう。
そう分かっているのに笑っているエレナを見るとルヴァルは"伝えない"という選択をしたくなる。
「……う〜わぁ、ガチめのガチの奴じゃん。俺、てっきり何かに利用する気満々で嫁にしたんだと思ってた」
そんなルヴァルを前にして面食らったような顔でノクスがマジかとつぶやく。
「なんていうか、こう……お館様って人間だったんすね」
色々人間離れしてるから魔物の親戚かと思ってたわと揶揄うように言ったノクスに眉間に皺を寄せたルヴァルは、
「さっきから何を言っているんだお前は」
とイラっとしたような口調で言い返す。
「何って……お館様ひーさんの事ぶっちゃけどう思ってんの?」
新婚さんを揶揄ってやろうくらいに思っていたノクスは会話に若干ズレを感じ、念のためルヴァルにそう確認する。
「どう、って」
聞かれたルヴァルは、エレナの姿を思い浮かべる。
エレナは自分に何かを求めることはなく、自分の隣で静かに歌を紡ぐ。そんな彼女の側にいる時間はとても心地良い。
エレナは自分から欲しい物に手を伸ばす事が少なく、与えられたモノをとても大事そうに受け取って、幸せそうに笑う彼女を見ていたらもっと色んなモノを与えたくなる。
常に奪う側の人間である自分にとって、それは珍しい感情だった。
「……絶滅危惧種レベルの保護対象者だな」
これがきっと庇護欲というものなんだろう。ルヴァルは少し考えてそう答える。
が、ルヴァルの回答を聞いたノクスは、
「……無自覚かよ。ひーさん、どんまい」
うへぇと面倒くさそうに肩を竦めた。
「はぁ?」
何を言っているんだコイツはと言わんばかりの声を上げたルヴァルに、
「メンドーな拗らせ独りよがり乙」
ノクスはバッサリそう言って切り捨てる。
別に女を知らないわけでもないだろうし、こんなどう見ても百戦錬磨みたいな面構えで、無自覚。
恋心を自覚している分、エレナの方がまだマシ……と言うよりもリーファをはじめとして見守り隊が結成されるレベルで愛でられているくらい可愛い。
が、ヤローの恋煩いは萌え転がる要素もないし、正直面倒でしかない。
かと言って余計な事を言ってこれ以上ルヴァルが拗らせたりしたら自分がリーファに締め上げられる。
そう思考を巡らせたノクスは、
「俺、ひーさんの親衛隊加入するわ」
そう宣言する。
意味が分からないと訝しげに眉を顰めるルヴァルの前にノクスはトンっと紙を1枚差し出す。
「なんだ、コレは」
「"音"で偽造通貨を発見するための判定機の仕様書。ちなみにひーさんの設計」
まぁ、俺が懇切丁寧に手伝いましたけど、と言ったノクスは、
「ひーさんは、ここで生きていくための覚悟を決めてる。自分でできない事は誰かの力を借りながら、それでも自分にできることを探そうと毎日努力してる」
きっとルヴァルにとって必要になるからと短時間で偽造通貨を判別できる機器の設計図の構想をまとめ、ノクスに持ち込んだのはエレナ自身だ。
「怖がらせないように、って勝手に連れてきておいてからの放置。何が起こるのか、そもそもひーさんが傷つくかも分かんないのに、勝手に決めつけて大事な事何にも伝えないまま囲い込み。それ、本当にひーさんのためなん?」
真剣な声音でルヴァルに尋ねる。
「戦い方なんてヒトそれぞれ。保護しなきゃいけない弱者だなんて侮ってたら、あっという間に寝首かかれるぞ」
黙ったままのルヴァルにニヤッと笑ったノクスは、
「覚悟を決めた女は怖ぇぞ。その目を逸らすなよ」
2人の進展についてはエレナの頑張りに期待する事にした。