【コミカライズ化】追放された歌姫は不器用な旦那様に最愛を捧ぐ
42.その歌姫は、所望する。
さて、と仕切り直したルヴァルは、
「エレナのドレスを頼みたい。建国祭用と王都滞在用に数点。デザインの打ち合わせは彼女としてくれ」
と改めてメリッサに依頼する。
「ルル、私ドレスならもう沢山もって」
「何をおっしゃいます、お嬢様!」
わざわざ新しいものをオーダーしなくてもと申し訳なさそうにそういうエレナの言葉を遮って。
「ドレス、とは淑女の戦闘服です! あらゆる貴族や令嬢を蹴散らし、制圧するための武器。辺境伯夫人として社交の場で華麗に戦闘服を着こなし、アルヴィン辺境伯領の財と権力を見せつけなくてどうします」
メリッサは食い気味にエレナに熱く語る。
「そういうものなのね」
「そういうものです。ドレスコード、とはよく言ったモノで、開催されるパーティー、場所、時間帯によって相応しい装いとは様々です。そしてドレスや装飾品ほど雄弁にお嬢様の魅力を引き立て、また殿方からの寵愛具合を示すのにうってつけのアイテムはございません」
にこっと微笑むメリッサは、
「メリーメリー。私はその名に私の誇り全てを賭けております。故にオリジナルフルオーダー品はどれほど大金を積まれても気に入った相手にしか作りません。そして私はアルヴィン辺境伯領の仕立て屋。それを着るということは、私をはじめそこに関わる多くの人間の誇りを背負って立つという事。お嬢様にはその覚悟がお有りになって?」
とエレナに問う。
紫水晶の瞳をパチパチと瞬かせ、エレナはメリッサの言葉を真摯に受け止める。
建国祭の場にルヴァルのパートナーである辺境伯夫人として出席する。
それはターゲットに接触し、今からこの国で起きる悲劇を、そして自分たちにこれから降りかかる火の粉を内々に止めるための反撃の一手。
「メリッサさん、ご指摘ありがとうございます」
エレナは立ち上がるとメリッサの前で優雅にカーテシーをして見せる。
「私は私の誇りをかけて、またこのバーレーの一員として、今から運命とやらをこの手に掴みに行かねばなりません。未熟な私を制し、アルヴィン辺境伯に近づくための機会にしようと虎視眈々と狙う者もいるでしょう。それら全てを蹴散らし、辺境伯夫人として戦うための力が欲しい。どうぞ、私にあなた方の誇りをお預けくださいませんか?」
ルヴァルが側にいる事を許してくれたから、逃げないとエレナは決めた。
ここの人達に負けないくらい強くありたい、と思う。
自分にとって大切だと思った人達を守れるように。
そしてもう2度と奪われる事などないように。
ルヴァルと一緒に全力で運命とやらに抗うのだ。
「はぅわぁぁーー良き! サナギが羽化して美しい蝶として飛び立とうとするかの如く、少女から大人への階段を登り、若さ故の衝動と未熟さを持て余しつつも自分の全力を持って戦おうとするその様。良き! 非常に良きです、お嬢様!!」
ヤバい、妄想が捗るとエレナの手を取りありがとうございます!! と琥珀色の瞳が叫ぶ。
そのままエレナをじっと観察したのち、スケッチブックを手にしたメリッサは手が見えないくらい高速で、デザインを描き始める。
「本当に相変わらずだな、お前は」
「可愛い女の子からしか取れない栄養分があるのですよ。あ、お館様の分も新調しましょうね」
「はぁ? 別に俺の分は」
「良くありませんよ。お館様の衣装、黒ばっかりじゃないですか! そんなだから、死神だの魔王だの言われるのです。お嬢様を隣に侍らせるならそれ相応の格好をして頂かないと」
デザインを描き上げながら、メリッサはルヴァルに苦言を呈す。
「はぁ、いい。夫婦でリンクしたデザイン! 一対の絵画を見ているようですわぁー」
コレぞ芸術! と叫ぶメリッサに、
「は? 一対って、揃える気かよ」
リンクさせる衣装もないわけではないが、最近では夫婦やパートナー同士で色味を揃えることはあまり見かけない。
それをあえてやるとメリッサはいう。
「当たり前ではありませんか? お嬢様ご希望ございます?」
「そんな小っ恥ずかしいこと」
できるか! とルヴァルが言うより早く、
「……ルルとお揃い」
とエレナのつぶやく声が聞こえる。
「ルルとお揃い、すごく嬉しい。なんだかとっても仲良しみたい」
ぱぁぁっと顔を明るくして、本当に嬉しそうに微笑むエレナ。
「せっかくなら青とあと銀糸の刺繍が入っていると嬉しいわ。雪の結晶、私南部で育ったから見た事なくて」
今まであまり自分から希望を言う事がなかったエレナが嬉しいと言葉にし、こうして欲しいと口にする。
しかも彼女が所望した色はどう見ても自分に関連した色味で。
「ダメ……かしら?」
小動物のように自分を伺い見るエレナの黒髪をいつもより意識して優しく撫でたルヴァルは、
「そこまでいうなら仕方ない。今回だけだからな」
照れたように視線を逸らしつつ了承を告げた。
「青に銀。ふふふふ、お嬢様攻めますねぇ。承ります!」
そんな2人のやり取りを見ていたメリッサは肩を震わせながら、尊いが過ぎると叫びデザイン画を量産していった。
「エレナのドレスを頼みたい。建国祭用と王都滞在用に数点。デザインの打ち合わせは彼女としてくれ」
と改めてメリッサに依頼する。
「ルル、私ドレスならもう沢山もって」
「何をおっしゃいます、お嬢様!」
わざわざ新しいものをオーダーしなくてもと申し訳なさそうにそういうエレナの言葉を遮って。
「ドレス、とは淑女の戦闘服です! あらゆる貴族や令嬢を蹴散らし、制圧するための武器。辺境伯夫人として社交の場で華麗に戦闘服を着こなし、アルヴィン辺境伯領の財と権力を見せつけなくてどうします」
メリッサは食い気味にエレナに熱く語る。
「そういうものなのね」
「そういうものです。ドレスコード、とはよく言ったモノで、開催されるパーティー、場所、時間帯によって相応しい装いとは様々です。そしてドレスや装飾品ほど雄弁にお嬢様の魅力を引き立て、また殿方からの寵愛具合を示すのにうってつけのアイテムはございません」
にこっと微笑むメリッサは、
「メリーメリー。私はその名に私の誇り全てを賭けております。故にオリジナルフルオーダー品はどれほど大金を積まれても気に入った相手にしか作りません。そして私はアルヴィン辺境伯領の仕立て屋。それを着るということは、私をはじめそこに関わる多くの人間の誇りを背負って立つという事。お嬢様にはその覚悟がお有りになって?」
とエレナに問う。
紫水晶の瞳をパチパチと瞬かせ、エレナはメリッサの言葉を真摯に受け止める。
建国祭の場にルヴァルのパートナーである辺境伯夫人として出席する。
それはターゲットに接触し、今からこの国で起きる悲劇を、そして自分たちにこれから降りかかる火の粉を内々に止めるための反撃の一手。
「メリッサさん、ご指摘ありがとうございます」
エレナは立ち上がるとメリッサの前で優雅にカーテシーをして見せる。
「私は私の誇りをかけて、またこのバーレーの一員として、今から運命とやらをこの手に掴みに行かねばなりません。未熟な私を制し、アルヴィン辺境伯に近づくための機会にしようと虎視眈々と狙う者もいるでしょう。それら全てを蹴散らし、辺境伯夫人として戦うための力が欲しい。どうぞ、私にあなた方の誇りをお預けくださいませんか?」
ルヴァルが側にいる事を許してくれたから、逃げないとエレナは決めた。
ここの人達に負けないくらい強くありたい、と思う。
自分にとって大切だと思った人達を守れるように。
そしてもう2度と奪われる事などないように。
ルヴァルと一緒に全力で運命とやらに抗うのだ。
「はぅわぁぁーー良き! サナギが羽化して美しい蝶として飛び立とうとするかの如く、少女から大人への階段を登り、若さ故の衝動と未熟さを持て余しつつも自分の全力を持って戦おうとするその様。良き! 非常に良きです、お嬢様!!」
ヤバい、妄想が捗るとエレナの手を取りありがとうございます!! と琥珀色の瞳が叫ぶ。
そのままエレナをじっと観察したのち、スケッチブックを手にしたメリッサは手が見えないくらい高速で、デザインを描き始める。
「本当に相変わらずだな、お前は」
「可愛い女の子からしか取れない栄養分があるのですよ。あ、お館様の分も新調しましょうね」
「はぁ? 別に俺の分は」
「良くありませんよ。お館様の衣装、黒ばっかりじゃないですか! そんなだから、死神だの魔王だの言われるのです。お嬢様を隣に侍らせるならそれ相応の格好をして頂かないと」
デザインを描き上げながら、メリッサはルヴァルに苦言を呈す。
「はぁ、いい。夫婦でリンクしたデザイン! 一対の絵画を見ているようですわぁー」
コレぞ芸術! と叫ぶメリッサに、
「は? 一対って、揃える気かよ」
リンクさせる衣装もないわけではないが、最近では夫婦やパートナー同士で色味を揃えることはあまり見かけない。
それをあえてやるとメリッサはいう。
「当たり前ではありませんか? お嬢様ご希望ございます?」
「そんな小っ恥ずかしいこと」
できるか! とルヴァルが言うより早く、
「……ルルとお揃い」
とエレナのつぶやく声が聞こえる。
「ルルとお揃い、すごく嬉しい。なんだかとっても仲良しみたい」
ぱぁぁっと顔を明るくして、本当に嬉しそうに微笑むエレナ。
「せっかくなら青とあと銀糸の刺繍が入っていると嬉しいわ。雪の結晶、私南部で育ったから見た事なくて」
今まであまり自分から希望を言う事がなかったエレナが嬉しいと言葉にし、こうして欲しいと口にする。
しかも彼女が所望した色はどう見ても自分に関連した色味で。
「ダメ……かしら?」
小動物のように自分を伺い見るエレナの黒髪をいつもより意識して優しく撫でたルヴァルは、
「そこまでいうなら仕方ない。今回だけだからな」
照れたように視線を逸らしつつ了承を告げた。
「青に銀。ふふふふ、お嬢様攻めますねぇ。承ります!」
そんな2人のやり取りを見ていたメリッサは肩を震わせながら、尊いが過ぎると叫びデザイン画を量産していった。