【コミカライズ化】追放された歌姫は不器用な旦那様に最愛を捧ぐ
54.その歌姫は、狙われる。
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ゆっくりと味わうように赤ワインを口内で転がし、カルマはふっと楽しげに笑みを浮かべる。
「久しぶりに面白い余興だったな」
持て成しはこの国に来た時と変わらず、来賓として扱われているが、要人の護衛という名目で配置されている人間の数が増えている。
「この国の王太子もなかなかに面の皮が厚いようだ」
マリナもずいぶんと慎重にことを進めていたようだが、どこかしらで計画が漏れていたらしい。
だからといって、偽造通貨自体をなかったことにして、すべての通貨を置き換える暴挙に出るとは思わなかったが。
挑発するような、だがどこかこの状況を楽しんでいるかのような、青緑色の目が言っていた。
今なら見逃してやる、と。
「はっ、こんな面白い状況で、引くわけがないだろ」
計画が1つ、2つ、うまくいかないことなど、カルマにとっては、大した問題ではない。
現在自分が乗っ取ろうと思っている相手国のど真ん中で、一挙手一投足何一つ見逃すまいと相手が必死になって自分を見張っているのかと思うと、この状況すら興奮を覚える。
エレナとダンスを踊っていた時の自分を射殺さんとするばかりの強い青灰の視線を思い出し、カルマは口角を上げる。
「どうせ今の時点で私に手出しなどできないくせに」
そう、直接手を下したわけではない他国の王族を捉えることなどできるわけもないのだから、自分の優位性は変わらない。
「それにしても、あれはなかなかよかった」
ワインを飲みながら、カルマは上機嫌に彼女の姿を思い出す。
確かに近距離でしっかりとかけたはずの"
魅了"を打ち破って見せたエレナ。
いったいなぜ、彼女にはそれが効かなかったのか非常に気になるところだ。
「同意見だよ、エレナ。確かに"髪の色"ごときで使える駒を取り落とすのはもったいない」
ノルディアの唯一神の教えや国中に根付く信仰的に"異民族"の象徴とも言える黒髪が忌避される傾向にある事は確かだが、カルマ自身はその教えにも慣習にも懐疑的で、はっきりって興味がない。
そんな些細なことよりも、カルマの心を占めるのは。
「"私はもう彼のためにしか歌わない"ね。手に入らないと思うと、余計欲しくなる」
あの勝ち気な紫水晶の瞳が自分に屈服するところを想像し、カルマは笑みを漏らした。
チラッと時計に目をやったカルマはそろそろかとつぶやく。
「カルマ様!」
部屋に入ってきたのは、気配を消す効果が込められている真っ黒なマントを羽織ったマリナだった。
「どういうおつもりですの? あんな出来損ないの手をとって、公式の場で踊るなど」
開口一番に言う事がそれかと、少々興が削がれたかのように冷めた目でマリナを見返しながら、
「キミに私の行動を制限するだけの権利があったなんて驚きだよ、マリナ」
カルマはなんて事もないかのように淡々と返す。
「……!! ですが、あの女の手を取るなど……話が、違いますわ」
きゅっと形の良い唇を悔しそうに歪め、目を逸した憐れな女を見下しながら、彼女の使い所もこの辺までかとカルマは見切りをつける。
「随分、気が立っているな。おいで、可愛い私のマリナ」
カルマはマリナを引き寄せ、細い腰に手を回す。
「だって、私悔しくて。あの女が、あんな待遇許されて良いはずありませんわ」
マリナの世界では、どこまでも異母姉は邪魔な存在でしかないらしい。
そして、その昏い感情は使える。
「キミの言う通りだ、マリナ」
カルマに耳元で囁かれ、マリナの思考が止まる。
「かわいそうに。キミを不幸にするものを放っておいてはいけないね」
甘く、優しく、自分に都合の良い言葉に絡め取られ、マリナのエメラルドの瞳は妖しく光る。
「さぁ、魔女狩りを始めようか」
その一言で、マリナは完全にカルマに魅了された。
ゆっくりと味わうように赤ワインを口内で転がし、カルマはふっと楽しげに笑みを浮かべる。
「久しぶりに面白い余興だったな」
持て成しはこの国に来た時と変わらず、来賓として扱われているが、要人の護衛という名目で配置されている人間の数が増えている。
「この国の王太子もなかなかに面の皮が厚いようだ」
マリナもずいぶんと慎重にことを進めていたようだが、どこかしらで計画が漏れていたらしい。
だからといって、偽造通貨自体をなかったことにして、すべての通貨を置き換える暴挙に出るとは思わなかったが。
挑発するような、だがどこかこの状況を楽しんでいるかのような、青緑色の目が言っていた。
今なら見逃してやる、と。
「はっ、こんな面白い状況で、引くわけがないだろ」
計画が1つ、2つ、うまくいかないことなど、カルマにとっては、大した問題ではない。
現在自分が乗っ取ろうと思っている相手国のど真ん中で、一挙手一投足何一つ見逃すまいと相手が必死になって自分を見張っているのかと思うと、この状況すら興奮を覚える。
エレナとダンスを踊っていた時の自分を射殺さんとするばかりの強い青灰の視線を思い出し、カルマは口角を上げる。
「どうせ今の時点で私に手出しなどできないくせに」
そう、直接手を下したわけではない他国の王族を捉えることなどできるわけもないのだから、自分の優位性は変わらない。
「それにしても、あれはなかなかよかった」
ワインを飲みながら、カルマは上機嫌に彼女の姿を思い出す。
確かに近距離でしっかりとかけたはずの"
魅了"を打ち破って見せたエレナ。
いったいなぜ、彼女にはそれが効かなかったのか非常に気になるところだ。
「同意見だよ、エレナ。確かに"髪の色"ごときで使える駒を取り落とすのはもったいない」
ノルディアの唯一神の教えや国中に根付く信仰的に"異民族"の象徴とも言える黒髪が忌避される傾向にある事は確かだが、カルマ自身はその教えにも慣習にも懐疑的で、はっきりって興味がない。
そんな些細なことよりも、カルマの心を占めるのは。
「"私はもう彼のためにしか歌わない"ね。手に入らないと思うと、余計欲しくなる」
あの勝ち気な紫水晶の瞳が自分に屈服するところを想像し、カルマは笑みを漏らした。
チラッと時計に目をやったカルマはそろそろかとつぶやく。
「カルマ様!」
部屋に入ってきたのは、気配を消す効果が込められている真っ黒なマントを羽織ったマリナだった。
「どういうおつもりですの? あんな出来損ないの手をとって、公式の場で踊るなど」
開口一番に言う事がそれかと、少々興が削がれたかのように冷めた目でマリナを見返しながら、
「キミに私の行動を制限するだけの権利があったなんて驚きだよ、マリナ」
カルマはなんて事もないかのように淡々と返す。
「……!! ですが、あの女の手を取るなど……話が、違いますわ」
きゅっと形の良い唇を悔しそうに歪め、目を逸した憐れな女を見下しながら、彼女の使い所もこの辺までかとカルマは見切りをつける。
「随分、気が立っているな。おいで、可愛い私のマリナ」
カルマはマリナを引き寄せ、細い腰に手を回す。
「だって、私悔しくて。あの女が、あんな待遇許されて良いはずありませんわ」
マリナの世界では、どこまでも異母姉は邪魔な存在でしかないらしい。
そして、その昏い感情は使える。
「キミの言う通りだ、マリナ」
カルマに耳元で囁かれ、マリナの思考が止まる。
「かわいそうに。キミを不幸にするものを放っておいてはいけないね」
甘く、優しく、自分に都合の良い言葉に絡め取られ、マリナのエメラルドの瞳は妖しく光る。
「さぁ、魔女狩りを始めようか」
その一言で、マリナは完全にカルマに魅了された。