副社長の執愛 〜人間国宝から届いた壺を割ったら愛され妻になりました〜
「君が就職活動を始めたら、うちに就職するようにさりげなく誘導した」
「さりげなくって、どうやって……」
「通学中の君の横で、さくらを使ってうちの良い評判を会話させた。君がよく見るサイトのネット広告を増やして、君がよく行くお店にポスターを貼らせた」
なんかやってることがものすごく回りくどい。御曹司って、もっとバーンと派手になんかやるものじゃないのかな。地味で回りくどくて執念深い……。
「君と入社式で再会したときには、歓喜のあまりプロポーズしてしまった」
「冗談だったんじゃ……」
「冗談にされて、俺は傷ついたよ」
彼の目がギラッと光る。
私は怯んだ。
冗談にしたのは私じゃないのに。
「研修が終わったらすぐに秘書課に配属させたよ」
碧斗さんが言う。
私は驚いた。
「副社長の専属になったのは……」
「俺の指示だ」
「まさか、転職に失敗し続けたのも……」
「俺が手を回した」
そんな。
「君の趣味を聞き出し、君の好きな本を読み、君の好みを研究した。君が楽しそうに話をしてくれるから、俺も楽しかったよ」
私は唖然とした。
「毎日、君をこっそりと送ったよ。無防備な姿が心配でたまらなかった」
ん?
私はひっかかる。
つまり、あとをつけてたってこと?
「私が轢かれかけたときにそばにいたのは偶然じゃないってこと?」
「そうだよ」
彼は照れたようにうつむいて肯定する。
ここ、照れるところ!?
「俺が真剣に口説いてる間、君は全部冗談にしてしまった。俺が傷つかないとでも?」
「そ、それは……」
私は言い淀む。
「俺への愛の損害賠償、これからもたっぷりしてもらうからね」
私はもうなにも言えなかった。
ニコッと笑った彼の目が、怪しく光っていた。
* 終 *