副社長の執愛 〜人間国宝から届いた壺を割ったら愛され妻になりました〜
五時になり、副社長が仕事を終えた。私もキリをつけて帰ろうとすると、軽く止められた。
「もう帰るのか」
「はい、今日は副社長もご用事があるようですし」
副社長はため息をついて立ち上がった。
「わかっているだろう、俺が予定を空けた意味」
副社長の目がキラリと光り、私はたじろいだ。
「今日こそ食事に付き合ってもらうぞ」
「それは無理です」
私はすぐに断った。
副社長はなにかというと私を食事に誘う。
会食にも何度も付き合わされて、周囲にはお気に入りの秘書だと思われている。
実際のところ、彼には何度も口説かれていた。
いたたまれなくて異動願いを出したけれど、通らなかった。
転職しようにも書類選考で落ち続け、なかなか転職できずにいた。
「誕生日プレゼントもくれないのかな」
「え……」
「俺の誕生日なのは知っているだろう?」
「そうですけど……」
にじり寄る副社長に、私はじりじりとあとじさる。
「三十歳、おめでとうございます」
私はなんとかそれだけを言った。
「プレゼントは君自身、なんていう気の利いたセリフを聞きたいものだ」
「ありえないです」
私はさらにあとじさる。
「俺はこんなに君を愛しているというのに」
壁に追い詰められた私の手を、副社長が持ち上げる。そのまま指先にキスをされ、私はうつむいた。
「赤くなってる」
くすくすと副社長が笑う。
「やめてください、セクハラです」
彼は手を離してくれた。
覗くように顔をあげると、優しく目を細めた彼がいた。