副社長の執愛 〜人間国宝から届いた壺を割ったら愛され妻になりました〜


***

 初めて彼に会ったのは入社式のときだった。

 緊張でどきどきと会場に入ったら、彼がいた。
 先輩かな、とイケメンな彼に見とれた。

 整えられた爽やかな黒髪、涼やかな目元。細身の体にスーツがビシッと似合っている。

 重役のおじさんたちと仲良く話しているのが印象的だった。若くしてああいう人たちと仲良くできるのってすごい、と思った。

 目が合うと、彼は驚いたような顔をした。

 私、なんか変かな。
 そう思って慌てて服をチェックする。どこも変なところはなさそうだけど。

 彼はつかつかと私に近づいてきた。

「君、名前は?」
 聞かれて、私は戸惑う。

「支倉睦美です」
「俺は桐坂碧斗だ。結婚してくれ」
 私は呆然と彼を見た。なにを言ってるんだろう。

「坊っちゃん、冗談きついですよ」
 重役らしき男性が笑いながらツッコミを入れた。

 なんだ、冗談か。それにしてもなんでいきなりそんな冗談を?

「すまない、緊張しているようだったから」
 彼は微笑して私に言った。

「ありがとうございます」
 私はお礼を言って彼らの前から去った。

 だけど、先ほどとは別のどきどきが胸を支配していた。

 あんなイケメンに、冗談でも結婚を申し込まれた。

 社長と同じ名字だ。坊っちゃんと言われてたし、きっとご子息なんだろう。

 そう思っていたら、入社式で副社長だと紹介されて驚いた。年齢はまだ二十六歳。

 あんな若いのに副社長なの!? 一族経営だから!?

 私はまた驚いて彼を見つめた。

 目があって、ニコッと微笑みを返された。
 私は慌てて目をそらした。
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