副社長の執愛 〜人間国宝から届いた壺を割ったら愛され妻になりました〜



 三ヶ月の研修を終えると、私は秘書課に配属になった。

 まさかそんなところに行くことになるとは思わなかったから驚いた。

 仕事は思ったより忙しくて大変だった。

 配属直後、先輩に言われた。
「副社長の対応は気をつけてね」

 彼は優しそうな人に見えたから、意外だった。

「そんなに怖い人なんですか?」
「怒らせたら大変らしいの。蛇のように執念深くて、辺境に送られた人もいるって」

「ええ!?」
 私はぞっとした。そんな人の下にだけはつきたくない。

 怖がる私を見て、別の先輩が笑った。

「大げさよ。パワハラをして副社長に注意された人がいてね。その人が懲りなかったから、田舎の一人だけの部署に飛ばされたの」

「そうなんですね」
 ホッとした。むしろいい人のようにすら思える。

「ただね」
 先輩が意味深に言葉を切る。

 私は息を呑んで続きを待った。

「その人、副社長の高校の先輩で、学生時代に副社長の悪口を言ってたらしいのよ。その恨みを晴らしたんじゃないかって説があってね」

 私は目をしばたいた。
 それは本当なのだろうか。

 その悪口はどの程度だったのだろう。深く傷ついたのなら、たった一言でも重くのしかかってしまうのだろうけど。

「ただの噂よ。普通に仕事してればなにもないわよ」
「そうですよね」
 私はふっと肩から力を抜いた。

 しかし、蛇っていつから執念深い生き物にされちゃったんだろう。

 そんなことを思って、だけど、仕事が忙しくて、すぐに忘れてしまった。

 それから数日後。
 疲れて帰っているとき、ふと蛇のように執念深いのいわれを調べてみようと思った。

 だけど、ネットを検索してもなにもわからなくて、スマホをガン見する。

 そのまま歩いていて、後ろから急に抱きしめられた。

「きゃああ!」
 私は悲鳴を上げた。
 抱きしめる腕は男のものだった。

「痴漢!!」
 叫んで男をふりほどこうとするが、男は離れてくれない。

「赤だぞ!」
 男が叫んで、私ははっとした。
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