副社長の執愛 〜人間国宝から届いた壺を割ったら愛され妻になりました〜
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一年後。
私は、人間国宝の滝川さんを迎えるために、彼の家で準備をしていた。
結局、私は観念して副社長……碧斗さんと結婚した。
彼は壺を割ったことを滝川さんには伝えなかったと言った。
「聞かれたときに、俺が割ったと話すから大丈夫」
彼はそう言ってくれて、私は罪悪感にさいなまされた。
だけど、これもまた彼の愛なのだ、といつしかそれを受け入れた。
何より今は、とお腹に手を当てる。
愛の結晶が宿っているし、彼も誕生を楽しみに待ってくれている。
滝川さんが到着した。
私は広い屋敷の中、滝川さんを案内する。
碧斗さんが待つ座敷に着いた私は、顔をひきつらせた。
床の間に、あのときの壺が修理して飾られている。繋ぎ目に塗られた金がきらきらと輝いた。
私の顔から血の気が引いた。
「おお、これは!」
滝川さんが声を上げ、すぐさま床の間に向かう。
「申し訳ございません!」
私は深々と頭を下げた。
が、滝川さんは思いがけないことを口にした。
「これは、ぼっちゃんが焼いた壺ですな?」
今、なんて言った?
私は目を丸くして滝川さんを見た。
「俺の不注意で割ってしまったんです。金継ぎでつないでみました」
彼はそう答える。
「せっかく焼いたのに残念でしたな」
「しかし、彼女との縁を結んでくれたのですよ」
彼はにこやかに答える。
「意気込んで作っているからなにか企んでいるだろうとは思ったが、彼女の気を引きたかったのか」
がはは、と滝川さんは笑った。
もしかして……。
碧斗さんを見ると、彼はニコッと笑った。
「気が付いた? だけどもう遅い」
愕然とした。
彼は滝川さんのところで自作した壺を送ってもらい、偽装したんだ。私に割らせる予定で。
値段がつかないって、当然だよね。素人の作品に値段をつける人なんていないもの。
恨みがましく彼を見る。
彼は笑顔のまま、私を見返した。