副社長の執愛 〜人間国宝から届いた壺を割ったら愛され妻になりました〜


***

 一年後。

 私は、人間国宝の滝川さんを迎えるために、彼の家で準備をしていた。

 結局、私は観念して副社長……碧斗さんと結婚した。

 彼は壺を割ったことを滝川さんには伝えなかったと言った。

「聞かれたときに、俺が割ったと話すから大丈夫」
 彼はそう言ってくれて、私は罪悪感にさいなまされた。

 だけど、これもまた彼の愛なのだ、といつしかそれを受け入れた。

 何より今は、とお腹に手を当てる。

 愛の結晶が宿っているし、彼も誕生を楽しみに待ってくれている。

 滝川さんが到着した。
 私は広い屋敷の中、滝川さんを案内する。

 碧斗さんが待つ座敷に着いた私は、顔をひきつらせた。

 床の間に、あのときの壺が修理して飾られている。繋ぎ目に塗られた金がきらきらと輝いた。

 私の顔から血の気が引いた。

「おお、これは!」
 滝川さんが声を上げ、すぐさま床の間に向かう。

「申し訳ございません!」
 私は深々と頭を下げた。

 が、滝川さんは思いがけないことを口にした。

「これは、ぼっちゃんが焼いた壺ですな?」

 今、なんて言った?

 私は目を丸くして滝川さんを見た。

「俺の不注意で割ってしまったんです。金継ぎでつないでみました」
 彼はそう答える。

「せっかく焼いたのに残念でしたな」
「しかし、彼女との縁を結んでくれたのですよ」
 彼はにこやかに答える。

「意気込んで作っているからなにか企んでいるだろうとは思ったが、彼女の気を引きたかったのか」
 がはは、と滝川さんは笑った。

 もしかして……。

 碧斗さんを見ると、彼はニコッと笑った。

「気が付いた? だけどもう遅い」

 愕然とした。

 彼は滝川さんのところで自作した壺を送ってもらい、偽装したんだ。私に割らせる予定で。

 値段がつかないって、当然だよね。素人の作品に値段をつける人なんていないもの。

 恨みがましく彼を見る。

 彼は笑顔のまま、私を見返した。
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