副社長の執愛 〜人間国宝から届いた壺を割ったら愛され妻になりました〜
滝川さんが帰ったあと、碧斗さんに文句を言った。
「私のこと騙したのね」
「あまのじゃくな君を素直にさせてあげただけだ」
「なっ!」
「俺のことが好きだったろう? なのにいつも断られた」
「だって、釣り合いがとれないから……」
「俺は初めて見たときからずっと君だけを見ていたのに」
「入社式のときから?」
四年も前からずっと? そんなまさか。
「もっとまえだよ」
私は思い出せなくて目をさまよわせた。
「小学校二年生のときだよ。俺は、社会勉強のためにと一年だけ公立に通わされた。そのときに君に出会った」
「覚えてない……」
「君はあのときから可愛かった」
碧斗さんはうっとりと目を細める。
「転校初日の給食の時間。みんなは給食のプリンに浮き立ち、俺もまた楽しみにしていた」
確かに給食のデザートってなんか特別感があるけど、なぜ今プリンの話を?
「だが、俺はプリンの蓋を開けた直後、床に落としてしまった。あのときの絶望といったらなかった」
彼は目をぎゅっと閉じて天を仰いだ。
私はなんどもまばたきをして彼を見た。いくらなんでも、そんな絶望する?
「そのときだった。君は迷いなく俺にプリンを譲ってくれた。感動した。君は天使に違いないと思った」
そのときの感動を思い出したのか、彼は胸に手を当てる。
「なんか思い出してきた。でも、プリン程度で大げさな」
「俺には確かに見えたんだ。輝く君の背に天使の翼が」
彼は感動の余韻に浸るように目を閉じている。
「それからずっと、俺は君が好きだ」
「ええ……、プリンで……?」
私はドン引きした。
「給食で出る貴重なプリンなんだぞ! それを君は惜しげもなくくれたんだ! 好きにならないわけないだろ!」
百歩譲って好きになったとして、そんなに引きずるって、ある!?
「もとの学校にもどってからも君のことを忘れられなかった。自由に金を使えるようになってからは君の動向を常に把握するようにした」
なにそれ! もはや愛よりお金の力、すごい!