気まぐれランデブー
「おまたせ」
パシャっとしぶきが跳ねる。靴下が濡れた。
雨粒でストレート化してしまった髪をぶるぶると振るこの男のせいだ。
打ちつける雨にぴったりの形容は、ザーザーでもしとしとでもないような気がした。
この男と過ごす日の雨は、少し、違う音をしている。
「なんで傘持って来ないかなぁ」
「そんなん決まってんじゃん。すうちゃんと相合傘、するためですけど」
透明なビニール傘を奪い取ってしまったその男は、なんでもないそぶりで二人分の肩を傘の中に入れた。
パラパラ。
繊細な音がする。
そうか、雨の音はこれが正解か。と、頭ひとつ分高い彼の横顔を見つめながら思った。
「デート、しよっか」
「……嫌って言ったらどうするの」
「言わないよ、透雨(すう)ちゃんは」
「わかんないじゃん」
「だって好きじゃん」
何に対する『だって』なのか、さっぱり分からなかった。
好きじゃん、も何を意味しているのか分からない。
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