海が凪いだら迎えに来てね〜元カレ海上保安官に極秘出産が見つかるまでの軌跡〜
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「─…悪い、長引いた」
完全に過去にトリップしていた私を、たった一言で現実に引き戻した凪砂は、呼び出しの電話ではなかったのか、先程と同じように席に着いて、テーブルに並んだまま手をつけていなかった料理を食べ始めた
(そういえばこの人【 付き合おう】と言ったときも、平然と蕎麦食べてたもんなあ。)
別れ話をすることも凪砂にとっては、そこまで重要なことではないのかもしれないと思うと、今更価値観の違いに恐怖を感じた。
「食べないのか?お前ここのコース料理が食べたいって、ずっと言ってただろ。」
一瞬、先程の別れ話はすべて私の妄想で、今でも凪砂は私の恋人なんじゃないかという錯覚を起こしそうになる。
──…でも
「俺、横浜から異動する事になったから…もう会うこともないと思うけど、仕事無理しすぎるなよ」
もう会うこともない、っというのは次の勤務地を私には教えないという意味なのだとすぐに分かった。
付き合うことになった二年ほど前から、凪砂は横浜にある保安部に異動して来ていたので、いつでも会える距離に居るという謎の安心感があった。
それが再び遠距離になるのかと思うと普通に寂しいし、不安になるけど・・・私はもうそんな心配をさせてもらえないということだ。