ヤキモチ妬きな彼からの狂おしい程の愛情【完】
 その後、雪蛍くんがスタジオに戻るとすぐに撮影は再開され、私は彼より少し遅れてスタジオへ戻り端で様子を眺めていた。

 その途中、少し離れた場所に居たスタッフたちが何かを話していて、聞き耳を立てるつもりは無かったけれど話が聞こえてしまった。

「しかし、渋谷 雪蛍って本当我儘だよな」
「俺も前に先輩から聞いたけど、殆どの撮影現場で我儘言い放題らしいぜ」
「売れっ子だからって調子に乗ってるよな、本当。マネージャーも大変だろうな」
「そうそう。つーか渋谷のマネージャーってもう何人も変わってるんだよな」
「マジで?」
「そりゃそうだろ、あの我儘振りについていけないんだろうな」

 スタッフたちが話している事は悲しいけど全て事実。

 雪蛍くんの我儘振りは業界では有名な事で、どこの現場でも評判はあまり良くない。

 けれど彼は売れっ子でファンは沢山いる。

 ドラマは彼が出れば視聴率が取れるし、雑誌は発行部数が伸ばせるから、我儘で扱いにくくても業界では彼を呼ばざるを得ないのだ。

 それを全て知った上で、私は彼のマネージャーを引き受けている。

 話を貰った時、私が、彼を変えたいと思ったから。

 だけど、やっぱり私なんかがどうにか出来るはずは無かったのだ。


 この日、撮影が終わりマンションに着くまでの間、会話は一切無く気まずい空気が流れていく。

 そして別れ際、

「お前、もう明日から来なくていいよ。社長には俺から話す」

『来なくていい』というクビ宣告をされた私は、何も言い返す事が出来なかった。
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