ヤキモチ妬きな彼からの狂おしい程の愛情【完】
 正直、彼女のその発言には驚いてしまう。

 運命だとか、赤い糸だとか、考え方が幼稚というか脳内がお花畑過ぎる彼女に若干身体が拒否反応を起こしていたし、『雪蛍くんは私の彼氏なんで!』という言葉がすぐそこまで出そうになるのをグッと堪え、

「その、桜乃さんのお気持ちは分かりましたが、雪蛍はうちの事務所の稼ぎ頭ですし、この業界にスキャンダルはご法度です。桜乃さんはアイドルですし、そういう事には色々と制約が厳しいのではないでしょうか?」
「えー、それはそうだけどぉ、愛し合ってたら問題はないでしょ? 雪蛍くんだって絶対に結萌の事意識してるもん」
「………」

 その言葉に、ますます言い返してやりたい気持ちを抑えつつ話を続けていく。

「その、雪蛍の気持ちは私には分かりかねますが、恋愛沙汰に関しては事務所からも煩く言われていますから、雪蛍自身も立場を(わきま)えていると思うので桜乃さんのご期待には添えないかと……」

 すると私の言葉に気分を害したらしい彼女は、

「はぁ……。貴方、使えないわね。本当マネージャーって無能な人ばっかりね。いい? 貴方の見立てなんてどうだっていいのよ。マネージャーはマネージャーらしく素直に従いなさいよ。とにかく雪蛍くんは絶対私の事好きなんだから、話を取り持って! いい? 絶対よ? そうしなかったら、貴方の事務所を訴えてやるわ。映画だって、貴方のせいで主演降りるって言ってやるからね!」

 急に人が変わったかのように表情と態度を変えて捲し立てて言いたい事を言うと、彼女は怒って部屋を出て行ってしまった。

(あれが、桜乃 結萌の本性……)

 勿論、私には彼女の本性がどんな感じか何となく分かっていた。

 芸能界には、彼女のような人間も少なからずいるのは確かだから。

「はあ……面倒な事になったなぁ……」

 とは言え、彼女のあの怒り具合から見て、このまま蔑ろにしては事が大きくなってしまうのは予想がつく。

 雪蛍くんが彼女を好きだなんて一ミリも有り得ないのは分かっているし、告げ口をするようで気は引けるのだけど、雪蛍くんには彼女の本性も含めてきちんと話をしなければならないので帰ったら話そうと決めた私は、お店の人に部屋を貸してくれた事へのお礼をして雪蛍くんたちが待つ個室へ戻って行った。
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