ヤキモチ妬きな彼からの狂おしい程の愛情【完】
「雪蛍くん?」
「どうして、結萌を呼ばなければならないんだい?」

 雪蛍くんの言葉に、私は勿論、原さんも彼女を呼ぶ理由が見当たらないのか首を傾げている。

「指示した人間を隠し通すつもりだったらしいが、原、お前はさっき口を滑らせたんだ。話の中で『彼女』って言った。桜乃の事なんだろ? アイツなら、莉世の事を嫌ってるのも分かる。そもそも、あの日の話をして来たのもアイツだったしな」
「…………っ」

 雪蛍くんの話は図星だったようで、原さんは何も言い返せないのか黙り込んでしまう。

「早く呼べ。呼ばないなら今回の件、俺は社長に話してアンタのとこの事務所に報告させてもらうし、今後アンタのとこの事務所とは一切仕事をしないと頼むつもりだ」
「そ、それは困る! SBTNとの、君との共演NGというのは、事実上業界から干されるのと同じなんだ……」
「それが嫌なら今すぐ桜乃を呼べって言ってんだよ」
「…………分かった、連絡するよ」

 雪蛍くんの言葉に観念した原さんは急いで桜乃さんに連絡を取る。

 何だか電話口で揉めているようだったのだけど、話し合いの末すぐに来てくれる事になった。


 それから約一時間半が経った頃、

「はぁ……何で結萌がこんなとこまで来なきゃならないのよ。本当、使えないマネージャーね」

 いつになく不機嫌そうな桜乃さんがホテルへとやって来ると、あからさまな溜め息と共に原さんを睨みつけながら開口一番にそう言った。

「すまない……」

 そんな彼女に言い返す訳でもなく、頭を下げて項垂れる原さん。

「それで、私に何の用なの? あ、もしかして雪蛍くん、ようやく結萌と付き合う気になった? それなら結萌、すっごく嬉しい」

 そんな原さんを気にする様子もなく、桜乃さんは私たちに向き直るや否や、あっけらかんと笑顔でそう口にして雪蛍くんに近寄った。
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