ヤキモチ妬きな彼からの狂おしい程の愛情【完】
「美味そうな匂いがする。今日は肉じゃがだな?」

 マンションに着き、部屋に入るなり雪蛍くんは嬉しそうな声で私に問い掛ける。

「うん。この前食べたいって言ってたでしょ?」
「そうそう。何か煮物とかって定期的に食いたくなるんだよなぁ」
「あはは。雪蛍くん、和食好きだもんね。それじゃあシャワー浴びて来ちゃって? その間に用意しておくから」
「分かった」

 いつもは帰宅後シャワーに行くように促すも渋ってなかなか行かないのに、ご飯が用意されていると素直に従うような可愛い一面がある。

 いつもでは無いけど、迎えまで余裕のある時はご飯の用意をしてから迎えに行くのだ。

 最近現場には主に私に付いて勉強中の新人マネージャー小柴くんが待機しているので、私は打ち合わせや雪蛍くんの送迎をメインに動いている。

 初めの頃は小柴くんの事を嫌っていた雪蛍くんも、最近では彼の頑張りを評価しているみたいで、それなりに良い関係を築いているらしく、教育係の私としてはひと安心だった。

 ただ、小柴くんも私と雪蛍くんの関係を知っているから自分は邪魔な存在なのではと仕事中も気を使ってくれる事はあるけど、そこはやっぱり仕事が最優先だから気にしないでと言ってあるものの、どうにも気になってしまうようだ。

 それを考えると、やっぱり私は雪蛍くんのマネージャーを辞めるべきかなと迷ったりもする。

 だって、周りがやりにくそうにしているのを見ていると申し訳ない気持ちになるから。

 でも、それを雪蛍くんに言ったら全力で阻止されそうだから困ったものだ。


「美味い! やっぱり莉世の作る飯はどれも美味い」
「ふふ、ありがとう。そう言って貰えると作りがいがあるよ」

 お風呂から上がった雪蛍くんと共に夕ご飯を食べていると、私の手料理を『美味しい』とベタ褒めしてくる彼。

 彼の喜ぶ顔が見れるから色々してあげたいって思うし、褒められたらやっぱり嬉しい。

 終始和やかムードの食卓だったのだけど、私に掛かってきた一本の電話で状況は一変する。

「社長から電話だ」
「ジジイから? ったく、一体何の用だよ? くだらねぇ話ならさっさと切っちまえよ?」
「そういう訳にはいかないよ」

 突然掛かってきた社長からの電話を不思議に思いながら電話に出る。

「――お疲れ様です、お待たせしてすみません。何かありましたか?」
『南田くん、今雪蛍のマンションかね?』
「あ、はい……そうです」
『それなら雪蛍も居るんだな?』
「ええ、おりますけど」
『悪いが、雪蛍と一緒に今すぐ事務所へ来てくれ』
「分かりました、すぐに伺います」

 社長は雪蛍くんと一緒に居ることを確認すると、彼と共にすぐ事務所へ来るようにとだけ言って電話を切ってしまう。

「何だって?」
「雪蛍くんと一緒に、すぐに事務所に来るようにって」
「これから? 風呂入っちまったのに……面倒だな」
「仕方ないよ。何か急な用事なんだもの。急ごう」

 文句を垂れる雪蛍くんを説得し、私たちは事務所へ向かうことにした。
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