ヤキモチ妬きな彼からの狂おしい程の愛情【完】
「おはようございます」

 翌日、いつもの様に彼を迎えに来た私が撮影スタジオまで車を走らせていると、

「なぁ、何でいつも家に帰る訳?」

 ふいに彼が問いかけてくる。

「何でって、家に帰るのに理由が必要ですか?」
「どうせこうして早朝から迎えに来るんだぜ? いちいち帰るの大変じゃねぇの?」
「そう思うのなら、ああいう事をするのは止めて下さい」
「……されたくねぇならミスしなきゃいい事だろ」

 問いかけに淡々と答える私の態度が面白くないのか、自分の思い通りに事が運ばないのがイラつくのか、バックミラー越しに見えた彼の表情は何時になくムッとしている。

「ってか、何なんだよ? 今日はやけに他人行儀じゃねぇかよ」
「そうでしょうか? そもそもこれが本来あるべき姿です。私と雪蛍くんは友達でも恋人でもない訳ですから」

 昨夜、このままでは駄目だと思い直した私が、どうすればいいのか考えて出した答え――それは今一度彼との距離を見つめ直す事。

 今まで、彼の要望には出来る限り答えてきた。

 他人行儀な態度は嫌いだからと敬語を遣わずに過ごして来たけれど、私たちの関係はあくまで芸能人とマネージャー。

 私の役割は彼が芸能活動をスムーズに行える様にマネジメントを行いながら身の回りのお世話や精神的な面でも支えになるという事。

 仕事でなければ、それは家族や恋人が行う役割かもしれないけど、私は仕事として彼のサポートを担っている。

 新人だからといつまでも甘えたりミスをしていては話にならないし、『お仕置き』と言われて彼のペースに乗るのも決して良い事ではないと分かっているから、これからはミスをしないようしっかり仕事をこなして一人前になって彼を支え、今以上に彼の知名度を上げようと決意したのだ。
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