ヤキモチ妬きな彼からの狂おしい程の愛情【完】
「久しぶりだな!」
「本当に、久しぶり!」

 風の噂で大手企業に入社して入社一年で海外勤務になったという話は聞いた事があったけれど、まさかこんな所で再会する事になるとは思わなかった。

「なんつーか、変わってねぇな?」
「そうかな? まあでも、遊も変わってないよね」
「いやいや、そんな事ねぇだろ? あの頃よりだいぶイケメンになったと思うけど?」
「そういう事自分で言っちゃうとことか、全然変わってないって」
「はは、マジか」

 遊はなんて言うか、明るくてムードメーカーで男女から好かれていた。

 当時の遊は俳優になりたいと言っていた事から、劇団出身だった事や、芸能マネージャーに興味のあった私と話が合い、そこから仲良くなって、いつしか付き合うようになっていた。

 高校一年の終わりから高校三年の秋くらいまで付き合ってたけど、その頃に遊のお父さんが不慮の事故で亡くなってしまい、それが原因でお母さんが心を病んでしまった事で北海道にいる母方の祖父母宅へ引っ越す事になって、遠距離恋愛は向いてないからとお互いに納得して別れた。

 遊が引越しをしてから初めの頃は連絡をしていた時期もあったけど、互いに忙しくなるにつれて連絡を取る事も無くなり、引越しをして以降会う機会も無かったから、こうして遊に会うのは本当に久しぶりだった。

「つーか莉世、お前今、あの渋谷 雪蛍のマネージャーなんだってな? 俺、ほとんど海外勤務でさ、半年前にこっち戻って来たんだよ。んで、その時久々に白石(しらいし)とか宮城(みやぎ)と飲んで、二人から莉世の話を聞いたんだよ」
「ああ、そうなんだ」

 白石と宮城というのは高校の同級生。

 私がマネージャーをしている事はどこからか広まっていて中学、高校の同級生は大半が知っているから、別に不思議な事では無かった。

「お前は凄いな、芸能マネージャーになりたいって夢叶えて」
「ありがとう」

 遊が俳優の道を諦めた事は大手企業に就職したと知った段階で分かっていたから、敢えて聞きはしない。

「そういえば、お母さんはどう?」
「ああ、母さんは今じゃすっかり元気だよ。じいちゃんばあちゃんと一緒に過ごせてたのも良かったんだと思う」
「そっか。それなら良かった」

 それから私たちは当たり障りのない会話を交わしていたのだけど、

「――なあ莉世、良かったら連絡先、交換しない?」

 遊のその一言が、私の心をザワつかせた。

 元カレだけど、もう随分前の事だし、全然会っていなかったし、他の同級生の男子の連絡先だって知ってるけど、やっぱり『初カレ』だったからだろうか。

 連絡先を交換する事が、物凄くいけない事のように感じてしまう。

 でも、ふと昼間の記憶が蘇る。

(……事情があるにしても、雪蛍くんは私に、嘘をついた。連絡先を交換するくらい、いいよね)

 別にやましい事は何も無い。

 聞かれたら答えられない事も無い。

 そう思った私は、

「うん、いいよ」

 遊と連絡先を交換する事にしたのだ。
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