ヤキモチ妬きな彼からの狂おしい程の愛情【完】
「⋯⋯何でだよ」
「え?」
「何で⋯⋯そんな顔してんだよ」

 突然の雪蛍くんの言葉の意味が分からなかった。

 そんな顔って、どんな顔なの? そう疑問に思っている私をよそに雪蛍くんは言葉を続けていく。

「俺、お前にそんな顔させたくて連絡断てって言ったんじゃねぇよ? 俺の事が大切とか言っときながらそんな顔されても⋯⋯嬉しくねぇよ。お前今、どんな顔してるか分かる? すげぇ悲しげな顔してんだよ⋯⋯相手だけじゃなくて、莉世も、未練あんじゃん⋯⋯」
「違っ、そんな事⋯⋯私は本当に、雪蛍くんの事が――」
「今日はもう帰る。また暫く忙しくなるから⋯⋯連絡も出来ない」
「雪蛍くん、待って!」

 顔を背けた彼は帰ると口にするとそのまま立ち上がり私の呼び掛けにも反応を示してくれず、玄関まで歩いていく。

 そんな雪蛍くんを追いかけて靴を履いてドアノブに手を掛けたところで彼の腕を掴んだけれど、

「悪いけど、今は何も話したくない。その意味、分かるよな」

 振り向かず、そう素っ気なく言い放って私の手を振り解くとそのまま外へ出て行ってしまった。

(私⋯⋯そんなに未練がましい顔をしていたの?)

 雪蛍くんが帰って静まり返る部屋をトボトボ歩き洗面台の鏡で自分の顔を見てみるけれど、今は彼が帰ってしまった事で悲しい気持ちになっているから当然浮かない表情をしている。

 正直、遊と電話をしていた時の自分の表情なんて分からない。確認のしようが無いから。

 だけど、さっき遊に改めて気持ちを伝えられて、複雑な思いと切ない気持ちを抱いたのは事実。

 初めて付き合った人だったし本当に好きな人だったから、別れた時は悲しかった。

 暫くは、よりを戻したいと願った事だってあった。

 それでも、雪蛍くんを好きになってからは、そんな気持ち、忘れてた。

 再会した瞬間は懐かしく思いはしたけど、今更遊に恋愛感情なんて抱かない。

 雪蛍くんの事が大切な気持ちは本当なのに⋯⋯それを信じて貰えなかった。

 その事が、何よりも悲しかった。
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