ヤキモチ妬きな彼からの狂おしい程の愛情【完】
 あの日から数週間、雪蛍くんと会う事はおろか連絡すら取っていない。

 彼の近況についてはマネージャー補佐として逐一報告を受けているから忙しいのは分かっているのだけど、傍に居られない事、話すら出来ない事が辛く悲しい。

 週刊誌の熱愛報道については雪蛍くん本人から聞いていた通り二人の間にはやましい事が何も無いと双方の事務所から回答があり、それを受け入れた世間は納得したようで騒ぎはすぐに収まった。

 遊との事さえ無ければ雪蛍くんと険悪になる理由なんて無かったのにと思うと、あの日遊と再会して連絡先を交換した軽率な自分の行動を悔やむばかりだった。

 そして遊からはというと、あの日以降一度だけ電話が掛かってきたのだけど、それに出る事はしなかった。

 もう連絡は取らないと決めたし、これ以上雪蛍くんとの関係が壊れるような行動を取る事だけは絶対避けたかったから。

 悲しみと後悔を抱いたまま時間だけが流れていく毎日。

 雪蛍くんから連絡が来たのは、それから更にひと月半が過ぎた頃、「仕事終わりに会いたい、話がある」と言われたので、彼の帰りを彼の部屋で待っていた。

「ただいま⋯⋯久しぶり」
「おかえりなさい。うん、久しぶり」

 会った最後の日が気まずい別れ方だった事や会うのが久々過ぎてお互い何だかよそよそしい感じがしてなかなか上手く話せないし、ついつい視線を外してしまう。

「あ、リクエスト通りご飯は煮物にしたよ。お風呂も沸かしてあるから先にお風呂入っちゃう?」

 あまりの気まずい空気に耐え切れなくなった私は何か話題をと思い夕飯の話を切り出しながらお風呂に入る事を勧めようとすると、

「――ごめん、この前はあんな態度しか取れなくて」
「⋯⋯!」

 少し弱々しい声でそう口にながら、雪蛍くんが後ろから私の身体を抱き締めてきた。
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