ヤキモチ妬きな彼からの狂おしい程の愛情【完】
「……何だよ、今、取り込んでんだけど」

 不機嫌さを滲ませた雪蛍くんが社長に何の用か問い掛けると、電話越しにその用事を口にしているのか、彼の表情が真面目なものに変わる。

 そして、「分かった、これからすぐに行くよ」と答えた彼が電話を切ると、私に向き直りこう言った。

「莉世、じじいが俺たちに話したい事があるから来てくれって」
「話?」
「ああ。ま、丁度いいよ。俺らが結婚する事も報告したいしさ」
「結婚報告……だけど、今こんな時にそんな報告するのは流石にまずいんじゃ」
「んな事ねぇよ。遅かれ早かれ結婚するのは変わらない。なら、今言っても後で言っても同じだろ? ほら、準備して。小柴が今こっちに向かってるから」
「う、うん、分かった」

 部屋に引き篭もりだった私は雪蛍くんに言われるがまま出掛ける準備を始め、彼と共に事務所へ向かう事になった。


「呼び出してすまないな。しかし雪蛍、まずは何か私に言う事があるんじゃないのか?」

 事務所へ着き、社長の元を尋ねた私たち。

 ドアを閉めて社長と向き合うや否や、社長は雪蛍くんを咎めるような口振りで言葉を待っている。

「……まあ、会見の時、勝手に打ち合わせ内容と違う事を口にした事に関しては、俺が悪かったと思う。けど、俺は自分の気持ちを偽ってまで仕事を続けるつもりは無かったし、莉世と別れるつもりも無かったからああいう風に言ったんだ」
「…………」
「それと、さっき俺は莉世にプロポーズして、オッケー貰ったんだ。近々莉世の両親にも挨拶に行くつもりだから」
「プロポーズ……。お前は次から次へと勝手な事を……」

 結婚報告をすると言ってはいたものの、今この状況下で言える雪蛍くんは流石だと思った。

 嬉しいけれど、明らかにそんな雰囲気では無いので私はヒヤヒヤしながら行方を見守っていく。

 呆れ顔の社長が溜め息を吐くと、今度は私の方へ視線を移し、

「……南田くんも、本当にそれでいいんだな? 雪蛍と結婚となればマネージャー業は完全に引退する事になるし、残念だが……事務所も辞めてもらう事になる」

 今後についての意思確認をしてきた。

 マネージャー業を辞めるのは、雪蛍くんとの事が公になった時点で覚悟をしていた。

 けど、仕事については裏方でもいいから続けられたらと思っていたから、辞める事になると思うと少しだけ寂しい気持ちがあるけれど、それ以上に雪蛍くんとのこれからの方が大切だから仕方の無い事だと頷いた。
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