たとえこれが、何かの罠だったとしても。

プロローグ

『かえ、で、ごめ、んな…』

私の顔に手をあてるお兄ちゃんの手は冷たくなってい
る。

『いつか、かえで、のこと、守って、くれる人が、現れ、るから…』

『まもってくれるひとぉ?』

そんなの、お兄ちゃんしかいない。

『かえでは、おにいちゃんがいなきゃいや!』

ーポタッ

お兄ちゃんの頬に涙が落ちる。

『かえ、で、泣くな、よ…』

お兄ちゃんは、私の涙を指で拭う。

『かえでに、すてき、な、王子、様が、現れる、まで、俺が、見守って、るから…』

私の手の平を握ったまま、お兄ちゃんの手は力を無くした。

『おにい、ちゃん?おにいちゃん!!!』

私の視界に写ったのは、真っ赤に染っているアスファルトの地面と、青白いお兄ちゃんの顔。

私はその場で泣き叫んだー。
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