たとえこれが、何かの罠だったとしても。
胡桃の小言を無視して走り出した。

まあ、確かに嘘をついていたのは事実だけど。

「ねえねえ、そこの可愛い子、俺たちと遊ぼうよ」

「いや、私これから一緒に回る人いるので」

「じゃあ、その子も一緒でいいからさ。ね?」

なんでこんなに、私に声を掛けてくるんだろう。

変わった趣味の人が多いな…。

「おい、俺の女に何してる」

振り向くと、そこには伊吹さんがいた。

男たちは、伊吹さんに睨まれて脱兎のごとく逃げ出した。

「伊吹さん、ありがとうございます」

「まったく…。楓はいつもこうだな。メイド服も可愛かったけど、浴衣も似合ってる。可愛い」

「あ、ありがとうございます…」

伊吹さんは天然タラシなんだから。

私の顔は今、赤くなっているんだろうな…。

「あれ、楓お嬢様、顔が真っ赤ですよ?熱でもあるんですか?」

意地悪な顔で、ニヤニヤとこっちを見ている。

「な、なんでもありません!…あ、縁日がありますよ!」

ヨーヨー釣りや射的、金魚すくいもある。

お客さんで賑わっていて、輪投げで遊んでいる子供たちもいた。

男の子が狙っていたのは、某アニメの刀。

人気のアニメで、グッズはよく売り切れる。

私も、水柱の彼が推しで…じゃなくて。

よくよく見ると、あと輪投げは1個だ。

そっと男の子に近づいて、

「私がやってみてもいい?」

「うん、いいよー」

輪投げを貰い、空中へと飛ばす。

弧を描いて、おもちゃへと向かっていった。

「わあ!お姉ちゃんすごい!」

しゃがんで男の子に渡す。

「大切な輪投げ1個、使ってごめんね。これ、お詫び」

「いいの!?ありがとう!」

男の子は笑顔で去って行った。

あの子みたいに、みんなには笑顔でいて欲しいな…。

「ほんと、楓はなんでもできるな」

「伊吹さんほどじゃないですよ」

伊吹さんは、私よりもなんでも器用にこなす。

伊吹さんと私では雲泥の差だ。

「何かとってやるよ。どれがいい?」

射的のところへ行き、ピストルを構える伊吹さん。

「えっと。じゃあ、あれが欲しいです」

同時に撃ち落とされたのは、可愛いクマのぬいぐるみ。

伊吹さんが私の手へと渡してくれた。

「ありがとうございます!」

「ああ」

伊吹さんに頭を撫でられた。

赤くなった私を見て、伊吹さんは笑っている。

「顔真っ赤だな。そのクマみたいに可愛い」

「っ!からかわないでください!」

こんなふうに、ずっと楽しい時間が続けばいいなぁ。

私の願いとは裏腹に、伊吹さんと一緒にいられるタイムリミットは迫っていたのだったー。




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