たとえこれが、何かの罠だったとしても。

14.あなたは!?

『柳様がお亡くなりになられるなんて…』

『あんなに優秀な方でしたのに…』

『なんでも、楓お嬢様を庇ったとか』

『赤信号で横断歩道を渡ったんですって』

『とんだ疫病神ね』

誰かの、声が聞こえる。

『楓お嬢様は人殺しよね』

『ほんと、楓お嬢様が死んだ方が良かったわよ』

ここはどこ?

あ、ここ、見たことがある…。

お兄ちゃんの葬式の会場。

お父さんを探して歩いていたら、私への噂話を聞いてしまったのだ。

容赦の無い言葉に傷つけられ、耳を塞いでいた。

しばらくして、お父さんが迎え来てくれてそのまま家へと帰った。

自分の部屋へと向かっているとー。

『楓お嬢様、どういうお気持ちなんでしょうね』

『自分のせいだって責め込むのでは?』

『それはそうよ。だって事実なんだもの』

『柳様の方が、優秀で人当たりも良かったですし』

『それに比べて楓お嬢様は、成績もいまいちで遊んでばかり。私たちに会えば逃げる始末。柳様も報われないわよね…』

まさか、あんなに優しく接してくれた侍女たちにまでそう思われていたなんて、思いもしなかった。

でも、何も言い返せなかった。

赤信号で渡ったという事実はない。

確かに私は、『青信号』を見て渡ったのだから。

それでも、私のせいでお兄ちゃんが死んでしまったのは事実だから…。

だから私は、少しでもお兄ちゃんと並べるように必死に勉強した。

結局、どんなにいい成績を取っても、愛想を良くしても、陰口は叩かれたけど…。

伊吹さんが私の執事になって、私を叱ってくれて、励ましてくれて。

私の存在を認めて貰えたと思った。

眩しい光に目を覚ます。

時刻は朝の5時。

体を起こすと、伊吹さんと至近距離で目が合った。

「きゃあ!な、なんでここに!?」

「ずいぶんとうなされていたからな…。気になったんだよ」

「もしかして、寝顔見ましたか!?」

「ああ、ばっちりな」

最悪だ…。メイド姿だけではなく、寝顔まで。

とんだお目汚しをすみません…。

「その、私の寝顔は忘れてください」

「いや、はっきりと覚えているから無理だな」

なんでそんなに!?

もしかして、脳裏に焼き付くほどのブサイク顔だったとか!?




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