たとえこれが、何かの罠だったとしても。

伊吹サイド

どこからか、救急車のサイレンの音がする。

少し先の道路に、人だかりができているのが見えた。

俺は車を飛び出し、走り出した。

歩道の端で、大人に支えられながら泣きわめいている子供。

そして、道路に横たわっているのは…。

「楓!!」

血まみれで、顔は青白く意識がない。

これは夢か。夢であってくれ!

重い頭痛に襲われながらも、無我夢中で人混みをかき分ける。

そして、楓の目の前へと来て愕然とする。

痛々しい傷に、大量の出血。

急いで止血を試みようとハンカチを取り出すも、出血範囲が広く追いつかない。

「ご家族ですか?」

「家族です!」

俺も、西園寺家の人間。

そう思いたかった…。

「いったい、何があったんですか!?」

「信号無視したトラックが、猛スピードで突っ込んで来たんだよ。この子が男の子を庇ったんだ…」

もう、涙がとまらなかった。
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