たとえこれが、何かの罠だったとしても。

あれからしばらくして。

楓は、まだ少し生活に支障をきたすことはあるものの退院することができた。

家へと帰り、バルコニーで考え事をしていると。

「伊吹さん、少しいいですか？」

「ああ、もちろん」

ひとまず、楓が生きているということに安堵する。

「私、男の子を助けられて嬉しかったです。目の前で人の命が奪われるのを、二度と見たくなかった。死ぬのは怖かったけど、体は勝手に動いてました。……そして、今私はここに生きている」

「……」

「私、ずっと前から伝えたいことがあって。今回のことで、伝えられるうちに伝えておきたいって思って。……私、伊吹さんのことが」

これは、都合のいい夢なのか？

俺が作り上げた、妄想のような。