たとえこれが、何かの罠だったとしても。
でも、そこから先を俺には言う資格がない。

楓の手を取る資格は、俺には無いから。

「伊吹さんのことが好きです」

「……悪い。俺、楓のことそういう目で見たことない」

楓が、俺の口から出た言葉に悲しい表情をする。

そんな、辛そうな顔をするなよ。

俺の決心が揺らいでしまう。

おまえのお兄さんを奪ったのは、俺の父親だった。

あいつがいなければ、楓は今も、お母さんたちと家族4人で笑っていたはずだ。

……それを、あいつが奪った。

俺はそいつの息子なんだよ。

楓のそばにいることが許される人間じゃないんだ。

楓を置いて、俺は自室へと戻る。

こうすることが最善だと思った。
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