たとえこれが、何かの罠だったとしても。
伊吹さんは何も悪くない。

悪いのは、伊吹さんの父親。

…でも、世間は冷たいものだ。

西園寺グループの次期社長になるはずだった、柳さんを殺した人の息子と結婚。

世間がそれをどういうふうに捉えるのかなんて、考えたくもないほどだ。

汚い言葉を2人にぶつけるかもしれない。

二人の仲を、引き裂くかもしれない。

そんな未来を見た伊吹さんは、楓の元から去ることを決断したんだ。

伊吹さんは、あんなに楓のことを愛していたのに…。

神様、これ以上、あの二人に大きな試練を与えないでください。




「楓、大丈夫かしら…」

「大丈夫そうには見えないな」

伊吹さんと離れて早1週間。

授業も上の空で、お弁当にも手をつけない楓。

なんとか力になりたいけど、でも…。

「俺がどうにかする」

「鋼…。よし、任せた!」

「ちょっと櫂!そんな簡単に…。任せるってなにを」

「大丈夫。鋼なら大丈夫だから」

櫂の強い意志を宿した目を見て、私は頷いてしまった。
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