たとえこれが、何かの罠だったとしても。

鋼サイド

「やっぱりダメだったか…」

俺は今、十数年の恋に幕を下ろした。

来た道を戻ろうとすると、伊吹さんが外出から帰ってきたようだった。

楓も元気無かったけど、この男も大概だな。

酷い顔をしてる。

まったく、素直じゃないんだからな…。

「伊吹さん、どうも」

「ああ、おまえか…」

「ずいぶんと元気ないですね」

「そうか?いつもこんな顔だけどな」

嘘つけ。どこがだよ。

楓と一緒にいた時は、あんなに楽しそうにしていたくせに。

二人して、自分の中に溜め込んでしまうんだ。
< 180 / 220 >

この作品をシェア

pagetop