たとえこれが、何かの罠だったとしても。
「熱は高いですが風邪ですね。高熱でキツそうですので、解熱剤も出しておきます。季節の変わり目ですので、十分気をつけてください」

「はい、ありがとうございました」

旦那様も、心配そうではあるが風邪と聞き少しホッとしたようだ。

かくいう俺も、重病じゃなくて良かったと安心した。

だからといって、風邪が安心という訳ではない。

重症化することもあるから、気をつけないとな。

「楓が心配だし、今日は仕事休んで看病しないと」

「旦那様、今日は会社の重役と会議が入っております。先日持ち上がった重要な企画についての会議で、社長が抜けるのは難しいかと…」

「ちっ!代わりにおまえが出席しろ」

「しかし、現社長は旦那様であって…」

なんで俺が、あんな頑固じじいたちと会議をしなきゃならないんだ。

「…仕方ない。楓のことはおまえに任せる。だが、変なことはするなよ?」

旦那様は諦めつつも、最後に睨みをきかせてきた。

「はい、大丈夫です(たぶん)」

「あ!?絶対、手を出すなよ!」

すごい剣幕で怒鳴り、家を出て行った。

「ふう。やっと屋敷が平和を取り戻したな」

楓の元に行って、様子を見ないとな。

かなりの高熱だったし辛いだろう。

そのまえに、俺にはやることがある。
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