たとえこれが、何かの罠だったとしても。
「私、伊吹さんに話したいことがあるんです。聞いて、くれますか?」

すると、何も言わずに私を部屋の中に入れてドアを閉めた。

この話をして、何かが変わるとは思わない。

……でも、伊吹さんには話しておきたいと思ったのだ。

「私、お兄ちゃんがいたんです。カッコよくて、優しくて、なんでもできて…。今でもお兄ちゃんのことが大好きで、よく写真を見つめます」

「え?」

「もう、会えないんですけどね……。どんなに願っても、もう二度と」

涙が零れ、手のひらに落ちる。

「お母さんにも、もう会えない……。お母さんもお兄ちゃんも、私が殺したんです」

そう、あの日。

私の誕生日は、一瞬にして赤く血塗られた─。
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