たとえこれが、何かの罠だったとしても。

伊吹サイド

俺には、昔から居場所が無かった。

家は大企業と言われているが、付き合いのある会社や人はみんな悪に塗れていた。

事実、親父もどうしようもないやつだった。

母さんは、『あの人の優しいところに惚れたの』と話していたが、少なくとも俺には全くそう思えなかった。

ある日ー。

学校から帰ると、玄関に女物の靴が置いてあって……。

中に入ると、親父が知らない女とソファに座っていた。

「お、帰ったか伊吹。こいつは俺の息子だよ」

「初めまして、伊吹くん山下聡子よ。よろしくね?」

頼んでもいないのに俺を紹介する親父と、挨拶をしてくる女。

俺には理解できなかった。

母さんがいるのに、こんな女と一緒にいる親父が。
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