たとえこれが、何かの罠だったとしても。
「家族?そんなの形だけだろ。すぐに壊れるものなんて必要ない。俺が欲しいものは手に入らなかった。必要なお金は与えているし、文句はないだろ?」

そう言って、女と一緒に出て行った。

俺はしばらく呆然としていた。

親父は不器用だから、愛情を行動で表現できないだけなのかと思っていた。

でもそれは違った。

親父は、政略結婚で出会った母さんのことなど、愛していなかったのだ……。

全てを知り、親父を信じていた自分が情けなくて。

しばらくして、母さんが帰ってきた。

両手には、たくさんの荷物を抱えている。

「おかえり、母さん。何買ったの?」
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