死に戻り令嬢と顔のない執事

再びの断罪劇


「リーシャ・バートン! 本日をもって貴様との婚約を破棄させてもらう!」


 ――そして。断罪の舞台は、再び現実のものとなった。

 ハロルド王子の宮で開かれた小規模のパーティ。その会場全体に響くような声で、ハロルドは唐突にリーシャに向かって宣言をする。例によって例のごとく、右腕には可愛らしいティアラを侍らせて。
 参加者たちの視線がたちまちのうちに彼らに集まり、会場のざわめきは少しずつ小さくなっていった。

 「公務に疲れたハロルド王子をいたわるため」という失笑したくなるような名目で開かれた今日のパーティは、前の人生で開かれたものとまったく同じ場となっていた。
 己の賛同者ばかりで周りを固めた今日の彼を諌める者は、この場に誰も居ない。バートン家の財産を使って開催したパーティにもかかわらず今日もリーシャを見下した彼の行動は、いっそ清々しい程に傍若無人だ。



「婚約破棄、ですか……理由を、お聞かせ願えますでしょうか」

 とうとう始まった――込み上げる緊張と興奮を表に出さないように気をつけつつ、リーシャは深く腰を折って目を伏せる。

「ここに来てもまだシラを切るか!」

 大袈裟な仕草でリーシャへと指を突きつけると、ハロルドはかつてと同じ罪状を大きな声で宣言する。

「貴様は我が真実の愛の相手、ティアラに嫉妬し、彼女を排するために禁忌に手を出した。既に証拠は上がっている。悪魔召喚に手を出し、ティアラを呪殺しようとした魔女め! 報いを受けるが良い!」

 ハロルドが手を挙げれば、手際が良すぎる程に素早く衛兵がリーシャを取り囲んだ。
 当時はその怒涛の展開に、唖然として何もできなかったものだ。しかし、今回のリーシャは怯むことなくその場でじっと頭を下げたまま、落ち着いて口を開く。

「どうして私が、ティアラ様を害そうなどと?」
「っ、あくまでトボけるつもりか! お前は婚約者でありながらあまりにも至らなかったために、俺の愛を受けることができなかった。そしてその事実を認めることができず、俺の真実の愛の相手であるティアラに嫉妬したのだろう!」



 あまりにも一方的な言い分。しかし、彼の暴走を諌める者は誰も居ない。そんな敵ばかりの空間の中で、リーシャは気丈に顔を上げる。

「私がティアラ様に嫉妬するわけがありません」

 キッパリとした断言。
 凛とした声が、息を呑む静寂の中で会場の空気を震わせる。

「――だって私たちの婚約は、()()()()()()()()()のですから」

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