死に戻り令嬢と顔のない執事


「対価って……! まさか、お嬢様は……!」
「はいはい、大袈裟に騒がないの。アナタ、本当はもう、どういう状況かわかっちゃっているんでショ? アナタの大切なオジョーサマは、もう居ない。贄として捧げられて……召喚の儀は、完成した。だから、ワタシがここに居るってワケ。……あの王子、ナヨナヨしたお坊ちゃんかと思ってたら、自分で最後の手を下すなんてやるじゃない。チョット見直しちゃった」
「……っ!」

 その言葉で、ツルギは自分が間に合わなかったことを察する。
 裁判まではまだ時間があると思っていたのに、あの男(ハロルド)はどこまでも姑息で無法であった――リーシャは最後のトリガーである贄として利用され、裁きを受けることも許されなかったのだ。



 言葉をなくすツルギを前に、突如現れた男は「よいしょ、と」と召喚陣の中央に沈んでいた半身を引き上げてゆっくりと立ち上がる。

「こんにちは♪ ワタシの名前は、グィニードサガン。グィニードって呼んで頂戴(ちょうだい)。様付けも要らないから」
「貴方は……」

 魂を抜かれたように立ち尽くすツルギに、グィニードと名乗る男は「シィー」と人差し指を唇に当てると、軽くウインクをしてみせる。

「ワタシが何者かなんてツマラナイこと、訊かないでね? 賢いアナタなら、……わかるでショ?」

 ニンマリと唇を吊り上げて囁くグィニードの姿は、軽い口調とは裏腹にこの世のものとは思えない程美しい。
 均整のとれた肉体に、この世の闇を煎じ詰めたような漆黒の髪。そして日差しの気配を感じさせない蒼白い顔の両側には、捻れたツノが生えている。見るからに人間ではない、異端の存在。

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