死に戻り令嬢と顔のない執事

「提案を受け入れましょう。契約を、お願いします」

 静かな声でツルギが答えれば、グィニードはつまらなさそうな顔で片眉を上げる。

「じゃあ、契約成立ね? 観客としてはここで苦悩してもらいたかったところだけれど……まぁ良いワ。……あ、もちろんこの契約のことを口外することも禁止よ? せいぜい、正体不明の存在として彼女に怪しまれなさい」
「お嬢様が救われるなら、そんなこと問題にもなりません」

 きっぱりとそう返すツルギに、グィニードは得体の知れないものを目にしたような視線を向ける。

「それだけ(こじ)らせた執着を、強い忠誠心に捻じ曲げるなんて……本当に、アナタたち人間って不思議な生き物。じゃ、せいぜい頑張ってワタシを楽しませてネ。アナタ達の足掻く様を見届けてあげるから」

 そう言うとグィニードは無造作に片手を上げてパチンと指を鳴らした。



 途端にツルギの周囲を薄紫色の旋風が吹きはじめる。風は金色に光る不思議な文字を(まと)いながら、ツルギの姿を覆い隠すように徐々に強く舞い上がっていく。
 ツルギの存在を外界から隔絶させるような強い風。その風に覆われてグィニードの姿と声は遠ざかっていく。

 その姿が完全に見えなくなる直前になってから、「あぁ、そういえば」とグィニードは思い出したように口を開いた。

「言い忘れてたけどワタシ……意外とハッピーエンドが好きなのよ?」

 じゃぁネ♪、と投げキッスを送るグィニードの姿は、もうツルギの目には届かない。

 吹きつける風の強さに目を閉じていたツルギがやがて再び目を開けた時には――既に、過去への転送は行われた後であった。

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