死に戻り令嬢と顔のない執事

「貴方のその目……すごく、綺麗ね」

 やり直しを始めたばかりの頃に、リーシャから告げられた言葉。
 その初めて出会った時と変わらぬ彼女の言葉に、ツルギが身を震わせる程の歓喜を覚えたのは記憶に新しい。

 グィニードとの契約通り、リーシャはツルギのことを覚えていなかった。それでも、彼女は変わらず彼の瞳を好いてくれたのだ。
 リーシャが、目の前で生きている。そして自分を拒まずに受け入れてくれている――それだけで、ツルギは何もかもを捧げても構わないと、心の底から思ったのであった。



 ――そうして始まった二週目の人生。しかし、その進む方向は思ってもみないものであった。
 ツルギが変えようとしていた彼女の破滅の未来を、リーシャは自身の力で変えようと動き出したのだ。そうして自らの意思で運命を切り開いていくリーシャの行動力は、かつての姿とはかけ離れたものであった。

 以前の彼女は周囲に気を遣い、求められる己の役割を果たすことを自らの使命としていた。
 しかし、今は違う。彼女は自分を道具としてしか捉えていない周囲に見切りをつけ、殺される未来に(あらが)うために戦いはじめた。

 強い意思を持ち、やりたいことに挑戦するリーシャ。その姿は今まで以上に美しく、そして魅力に溢れていた。
 嬉しそうに輝いた顔、楽しそうに唇を(ほころ)ばせる笑顔、期待と緊張に張り詰めた真剣な顔――そんな初めて見せる彼女の表情ひとつひとつにツルギは魅了され、目を奪われた。その輝きが、眩しかった。



 そして同時にそれが苦しさを伴うものであることに気がついた時、ツルギは雷に打たれたような衝撃を受けたのであった。
 ――彼女が幸せになれば、それで良いと思っていた。そのはずだったのに。
 自分を信頼して見せてくれる彼女の心からの笑みを、そして他の誰にも見せたことのない彼女の悲しみの涙を。いつまでも自分のものにしたいと……いつしかそんなことを願ってしまっていた。

 それが危険な願望だということに、ツルギはすぐに気がついた。この気持ちが膨らんでしまったら、きっと自分はリーシャのそばを片時も離れられなくなってしまう。彼女が自由に羽ばたくことを恐れて、リーシャを鳥籠に閉じ込めてしまいたくなる。
 彼女を自分だけのモノにしたいという醜い欲望がじわじわと心を侵しつつあることに、ツルギはしっかりと自覚していた。


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