死に戻り令嬢と顔のない執事

 ――彼女は、知る由もない。
 実際に悪魔と契約した彼が何を望み、何を失ったかなんて。彼が絶対に手に入らないだろうと諦めていた存在が、欲しいと思うことさえ己に許さなかった対象が自分(リーシャ)だったなんて、彼女はまだ知らない。

 それでも、リーシャは彼を選んだ。もう彼から離れることはできないだろうなと予想しつつも、その甘やかな拘束に喜んで身を差し出した。もう二度と、彼のことを忘れたくなんてないから。

 リーシャの言葉を聞いて、執事は覚悟を決めたようにリーシャの手を取った。彼の長い指がリーシャの手をゆっくりと確かめるように絡めとっていく。

「えぇ、お嬢様。俺も貴女を愛しています。貴女のためなら、何を失ったって構わない。……約束します、必ず貴女を幸せにすると。そのために、俺はここに居るのだから」

 彼の手をしっかり握り返して、リーシャは顔を上げた。二人の視線が交差し、言葉はなくともお互いの感情が、熱が伝わっていく。



 静かに頷いて、リーシャはひと言だけ口にした。

「何度でも、貴方も名前を教えてね」

 ええ、と答える彼の声は囁きにすらならず、見つめ合う二人の距離は徐々に近づいて……そして、そっと唇が重なった――。

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