死に戻り令嬢と顔のない執事
「ふーん。結局オジョーサマが新しい恋に走ることも、あのコの執着が暴走することもなくハッピーエンドになったのねー」
二人の姿を眺める、第三の声。
中空に浮かぶ鏡を通して彼らの動向を見物していたグィニードは、彼らの出した最終的な結論に無責任な感想を洩らしていた。
彼らの動向を逐一監視しては、楽しんでいたグィニード。それがひとまず落ち着いてしまったことに、少しばかり肩透かしを覚えてしまう。
ハッピーエンドが好きな彼ではあるが、結局のところ悪魔である彼はそこに至るまでの苦悩が大好物なのだ。
その結果痴情のもつれによる事件が起きても、もしくは本当の気持ちを押し殺した歪な終着を迎えても、それはそれで楽しめると思ったのだが……意外にも彼らは迷いなく一番良い選択肢を掴み取っていった。
それは些か、人間の苦悩を娯楽としている悪魔にとっては物足りないくらいで。
「うーん……ロマンス小説だったら、愛のキスで呪いが解けるのがお決まりではあるけれど……」
グィニードとしも楽しませてもらった分、奪った代償を返すこと自体はやぶさかではなかったのだが。
「もうちょっと……彼らには苦しんでもらった方が、楽しいかも?」
気まぐれなのは、悪魔の性分。
幸福に緩む二人の空気を一瞥して、グィニードはあっさりとそんな結論を下す。
「それにしても、面白いモノね。相手の姿もわからないままで、好きになるなんて」
そう呟いて首を振るグィニードは、結局人間のことがわからない。わからないからこそ、時々彼らを観察したくなるのだ。
「せっかくワタシのチカラを貸してあげたんだもの、もう少し楽しませてもらうわ」
そんなことを口にしながらも、グィニードは薄々察していた。
どんな困難が降り掛かろうと、きっと彼らが挫けることはないのだろうと。想いが通じ合った彼らに、もう恐れるものなど何もないのだろうと。
異界へと繋がる鏡は、ただ静かに仲睦まじく寄り添う二人の姿を映し続けている――。