死に戻り令嬢と顔のない執事

祖父との再会


「おぉ、リーシャ! こんなに綺麗になって……わざわざこの老いぼれを訪ねに来るなんて、なんて優しい子だろう!」
「ご無沙汰しております、お祖父様。ご挨拶が滞っておりまして申し訳ありません」

 ――数日後。
 ジェドの元を訪れたリーシャを、意外にも彼は大喜びで出迎えてくれた。
 髪こそ真っ白に染まっているものの背筋はしゃんと伸びており、キラキラとした表情は精力に溢れてまだ若々しさを感じさせるジェド。その顔には満面の笑みを浮かべ、孫娘に久々に再会できた喜びをあらわにしていた。

「なぁに、気にするでない。どうせ、あの分からず屋が儂には会うなとでも厳命していたんじゃろ。それでもこの儂に会おうと心を決めてくれたことが、嬉しいよ。大抵のお願い事なら叶えてやりたくなるくらいには、の」

 そう言ってジェドはイタズラっぽく片目を瞑ってみせる。
 リーシャの思惑を見透かしながらも、それを快く受け止める度量。祖父のそんな態度に、(かな)わないなぁとリーシャはこっそり息を吐いた。



「どれ、まずは孫娘との再会の喜び、しっかりと味わせてくれ」

 そんなことを言いながら、ジェドは両手を拡げてリーシャを抱き寄せた。昔から彼が好んでしていた家族間の挨拶だ。
 記憶よりも随分と近い位置に祖父の頭があることに驚きながらも、リーシャは懐かしい感触にゆっくりと目を閉じる。包み込む温かな体温に、思わず涙が出そうになった。

 自分が受け入れられているという安心感。こんな気持ちになったのは、一体いつ以来だっただろう。凝り固まった心が解けていくようだ。心が欲していた、家族の温もり。
 子供の頃に戻ったような心地で、リーシャは祖父の抱擁を受け止める。その身体が離れる頃には、リーシャは今までにないほどのゆったりした心持ちになっていた。まるでジェドの魔法に掛かったような心地。

「さぁ、次はツルギ、お前さんだ」

 リーシャから離れると、そう言ってジェドはツルギに向かってお茶目な笑みを浮かべる。

「いえ、オレは……」

 慌てて身を引こうとするツルギを逃すものかと、ジェドはがっしりとその肩を捉えた。

「お前さんはいつも、ひとりで頑張りすぎる。リーシャのために尽力してくれるのはありがたいが、あまり抱え込みすぎるでない」



 そう言いながら、ジェドはやさしくその背を包んでいく。しばらく硬直していたツルギは、やがて諦めたようにゆったりと目を閉じた。
 彼の表情から少しずつ険しさが薄れていく。彼もまた、リーシャと同じようにジェドの魔法に掛けられたのだろう。

「……過分なお言葉、痛み入ります」

 そう返す彼の声は少し掠れていて、そして何かに耐えるように語尾が震えていた。

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