死に戻り令嬢と顔のない執事
その言葉を最後に、室内には静寂が訪れた。
――お伽話。本当に、そうだろうか。
ジェドの最後の言葉を聞いて、リーシャは胸の裡で呟く。
そんなことを言ったら、時を遡るなんてもっと荒唐無稽の話だ。それを身をもって経験している自分にしてみれば、悪魔の存在だって決して否定できるものではない。
「ありがとうございます、お祖父様。とてもタメになるお話でしたわ」
気を取り直したリーシャが礼を述べると、ジェドはホッとしたように破顔した。
「いやいや、こんな話が少しでも役に立ったのであれば幸いじゃ。……それで? そんなお伽話の情報を聞くためにこのジジィに会いに来たわけではなかろう?」
「はい」
しっかりと前を見据え、リーシャはまっすぐに告げる。
「お祖父様にはお願いがあるのです。私を、ある人物に繋げていただけませんか――」
リーシャの要望を最後まで聞くと、ジェドは大きな声で笑い出した。
「なるほど、面白い! まさか、彼に会いたいとは! ……よかろう。この儂に任せなさい」
「ありがとうございます、お祖父様!」
一瞬淑女の礼を取りかけて、リーシャはその動きをやめてジェドに飛びつくように抱きついた。
彼の眉尻が、さらに下がっていくのがわかった。
今目の前に居るのは、もはや人生で大成功を収めたやり手の商人ではない。ただの孫娘に甘い好々爺だ。
「ああ、可愛いリーシャ。いつでもこのジジィに会いにおいで。そなたの幸せを、儂も願っておるよ」
「はい、お祖父様もお元気で」
貴族の礼ではなく、家族の挨拶をして二人は離れる。
屋敷へと帰るリーシャの胸は、今までにない程にぽかぽかと温かくなっていた――。