元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜

懐かしさと気まずい空気

「そういえば、恵美さんはどうしてここに?」

 写真を戻し、目の前の彼女に視線を戻す。恵美さんは嬉しそうに微笑んだ。

「旦那様奥様が亡くなった後、私たちは皆解雇されました。その後、家政婦協会に所属して色々なお屋敷で家政婦をしていたのですが、飛鳥様が見つけてくださって。色春様と婚約するから、飛鳥様と色春様の専属になってほしい、と」
「私たちの、専属家政婦?」
「はい。飛鳥様はお優しい方ですね」

 恵美さんはそう言うと、飛鳥がさっきまで立っていたところを振り返った。

 優しい? 飛鳥が?

 こちらに顔を戻した恵美さんと目が合うと、彼女はクスリと微笑んだ。

「この土地はもともと旦那様の兄上様が相続された土地。立地もこの高級住宅街です。私では考えられないような額のお金が動いているはずですもの。専用エレベーターのみならず、随所に玖珂のお屋敷の素材を使っているところも、色春様への愛を感じました」

 ってことは、飛鳥は元から私とここに住む予定でこのレジデンスを建てたっていうの? 今日住める状態になってるってことは、何年も前から今日のために?

 疑問が疑問を呼び、考え込んでいると、目の前で恵美さんが両手を一度パチンと打ち鳴らした。

「色春様、ご夕飯の時間でした! 飛鳥様もダイニングに向かわれたのかしら。きっとお待ちですよね、急がないと」

 言いながら先に部屋を出ていく恵美さんは、足取りが軽い。そんな彼女を見ていると、少しだけイライラも収まった。
< 14 / 53 >

この作品をシェア

pagetop