元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜
「じゃ、もっと分かりやすくていいんだな?」

 飛鳥は言いながら立ち上がる。そのまま私の背後に立つと――

 ――バ、ババ、バックハグ!?

 ふわりと私を包み込む腕。彼の手は私の肩を通って前に回され、私の胸の前で組まれた。突然の近い距離に、鼓動が悲鳴を上げる。

「どうしようもなく好き。もう、離れたくない」

 甘えるような低く掠れた声。耳元で囁かれ、そこだけが急激に熱くなる。

「な、何言って……」

 思わず肩に力が入る。そんな私の肩に、飛鳥は顎を置いた。

「本当は今すぐ俺のものにしたい。けど――」

 飛鳥はそこまで言うと、不意に立ち上がる。首筋がにすうっと風が触れて、思わず身体が震えた。振り返り見上げると、飛鳥はものすごく優しい笑みを浮かべていた。

「――お前のこと、大事にしたいから。お前の気持ちがついてきてから、な」
「え……」

 ドキドキ、ドクドク。トクン。

 暴れる鼓動は、なぜか甘い響きを含む。それに戸惑っていると、飛鳥は急にいつもの意地悪な顔に戻った。

「何その顔。もしかして、期待してた?」

 腰をかがめた飛鳥にぐっと顔を覗き込まれ、思わず仰け反った。

「してない! するわけないでしょ!」

 睨みつけると、飛鳥はケラケラ笑った。

 あーもう! また、からかわれた!

「早く風呂入って寝ろよ。明日も仕事だし」
「言われなくてもそうします!」

 勢いよく立ち上がり、大股で歩いて部屋に戻る。背後で、飛鳥のケラケラと笑う声がずっと聞こえていた。
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