元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜
 運転手さんの迎えで昨夜と同じ高級車に乗り込むと、そのまま出社した。飛鳥がエレベーターホールまで私の腰をがっちりつかみエスコートするので、出社してきた社員たちの注目の的になってしまった。

 仕事中も同僚から向けられる視線が痛い。けれど、レベルアップした服装は、なぜか私を守ってくれている気がした。

「玖珂さん、先月提案していた新商品、サンプル上がったって」

 局長に言われ、「はい」と席を立った。サンプルを作っているのは、試作室だ。企画開発局から提案された味や見た目を実際に作り、提案者である私たちに味のサンプルを提供してくれるのだ。

 この仕事の、一番のワクワクと緊張の瞬間でもある。今回はうまくいっただろうか。逸る気持ちで試作室へ向かうと、見知った男性社員が「玖珂さん、こっち」と手を上げてくれた。

「ありがとうございます!」

 彼の元に駆け寄ると、テーブルの上に試作品が置かれていた。ブルーとピンクのチョコレート。宝石のような見た目は、私のイメージ通りだ。

「すごい、さすがです!」

 言えば、彼は嬉しそうに頬を綻ばせる。

「イエローは思っていた色味にならなくて。薄めになっちゃうんだよね、どうしても」

 言いながら、彼は失敗作をトレーに乗せて見せてくれた。

「もっと琥珀色というか、濃い感じが欲しいですね」
「そうだよね、宝石のイメージだもんなぁ」

 うーんと苦い顔をした彼に、「すみません」と頭を下げる。

「そのスカートみたいな色のイメージだよね。というか、イメージ変わったね玖珂さん」
「ああ、まぁそうですね」

 彼も婚約のことは知っているだろうけれど、ここで自ら話題に出すような真似はしたくない。適当に言葉を濁していると、彼は「食べてみて」とブルーのチョコレートを指差す。

 一粒摘んで、口に放る。舌の上で転がすと、優しいブルーベリーの香りが鼻に抜けた。

「美味しい」

 思わずうっとりしてしまう。この仕事していて、本当に良かった。

「改良点とかある? イエローの色味は要改善、として」
「そうですね……」

 うーん、と顎に指を置いた瞬間だった。

「色春」
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