元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜
 ◇

 今思い出しても恥ずかしい。なのに。

「あの時お前、大泣きしてたよな」
「な、人が忘れようとした記憶を――」
「でもこのチョコ、あの味だろ?」

 言い当てられ、恥ずかしさがこみあげる。だから、ついカッとなって言い返した。

「人の話聞かないで、チョコレート味わってらしたもんね!」
「聞いてたよ」

 ……はぁ!?

「ムカつくほど無反応で、チョコ食べてたじゃない!」
「それはその方がお前が泣きやすいだろうと思ったから」
「嘘……」
「嘘じゃない。苦しかったんだろ?」
「何でそんなこと……」
「好きだったんだよ。あん時には、もう」

 ステアリングを握る飛鳥は、何でもないことのように言う。一方の私は、耳までぼわっと熱くなる。同じ空間にいるのも嫌になるくらい恥ずかしくて、けれど車の中で逃げられない。

「ずっと、好きだったんだよ。だからお前の会社に多額の出資して、お前を婚約者にした。買収になったのは、その方が都合がいいってTSFの元社長に言われたからだ」
「まさか、飛鳥ってずっと私を――」
「今さら何だよ、別に驚くことでもねーだろ」

 なんでもないことのように言っていたけれど、飛鳥の頬がほんのり赤くなっていることに気づく。なんだかちょっと、嬉しかった。
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