元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜
 飛鳥はぎょっとし、手に持っていた銀色の包をひとつ落とした。

「誰、お前?」

 それを拾いながら、彼はこちらに怪訝な顔を向けた。

「あなたこそ、誰?」
「知らねーの? 俺、飛鳥」

 飛鳥は当時、中学三年生。久恩山家の長男がいることは私も知っていたが、広すぎるお屋敷の中では生活時間の違いもあり、彼とはその時が初対面だった。

「で、お前は?」
「玖珂、色春」
「ああ、お前が」

 彼はこちらをじっと見る。年下にも憐れみの視線を向けられるのかと思うと、それだけで胸の中がモヤモヤした。けれど。

「で、何してんの? お前も腹減ったの?」
「は?」

 彼はそのまま地べたに膝を立てて座り、腕に抱えていた銀の包を開いて口に放った。甘いミルクとカカオの香りが鼻に届き、チョコレートを食べているのだと察した。

「脳の糖分補給。お前も食う?」

 飛鳥は立ち上がりもせずに、チョコレートを包から取り出すと一粒摘んで私に差し出した。

「別に、チョコレートなんて……」
「あっそ」

 飛鳥はそう言うと、手に持っていたチョコレートを自分の口に放った。

 イラついたからか何なのか、私は目当ての水の入ったペットボトルを見つけるとそれを手に、さっさと食料庫から立ち去ろうとした。

「あのさ」
「何?」

 ドアの手前で呼び止められ、思わずツンとした声が出た。

「誰にも言うなよ、俺がチョコくすてねたこと」
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